2017年10月6日掲載
Art Ensemble Of Chicago with Cecil Taylor  
Thelonious Sphere Monk
DIW原盤                                 1990年1月録音

 誰がどう見ても、本作品のポイントは2つでしょう。

 1つ目は、モンクに捧げた作品であること。これは先に「Ancient To The Future」を取り上げましたが、その構想は「ドリーム・オブ・ザ・マスター」としてシリーズ化されるようになりました。AECは様々なアイデアを持っていましたが、そこで実現に動きだしたのが、このモンク作でした。

 ポイント2つ目は、セシル・テイラーの参加であります。テイラーは、エリントンとモンクの曲を徹底研究していた方です。AECはモンクを題材にした作品を作るという構想を通して、テイラーとの競演を実現させました。

 さてモンクに捧げた作品でありますが、7曲中モンクの曲は「Round Midnight」と「Nutty」の2曲だけであり、他の5曲はAECの曲やテイラーとの共作曲であります。ここらが巷に溢れているモンク集との違いであり、テイラーが共演に乗ってきた理由なのでしょう。

 なおテイラーは、AECとの共作となる3曲への参加となっています。

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 この作品の柱の一つは、AECとテイラーの共作である「Intro To Fifteen」と「Except From Fifteen Part 3A」と続く展開です。テイラーのピアノはピアノ弦への直接アプローチと、ヴォイスであります。そのヴォイスとAECとの絡みは、黒人の歴史への対話のように感じられます。勿論これはモンクを題材にしたものです。AEC各メンバーもテイラーも、ジャズの歴史について誰よりも身につけていることは有名なことです。その彼らが文句を題材にした時にこのような演奏になるのを目の前にして、いかに自分がモンクをごく浅いレベルでしか理解できていないかを悟り、それが初聴きから27年経っても同様であることを実感しました。私はここでの演奏を理解できたなどと言えるようになることは、一生ないような気がしています。

 もう一つの柱は、モンクの代表曲「Round Midnight」です。ここでの15分間の演奏を聴けば、誰もがAECの表現力の高さに驚くことでしょう。ジャズ好きならば、「Round Midnight」はこの演奏に限るというような作品を、いくつも頭の中に輝かせていることでしょう。この作品の方がこの作品での「Round Midnight」を聴けば、その頭の中の輝きにこれが加わることでしょう。

 いろんな角度から、様々な味わいを感じさせてくれる作品です。