2009年7月19日掲載
Horace Silver       Song For My Father
Blue Note原盤       1964年10月録音

 ブルー・ミッチェル(tp)とジュニア・クック(ts)との活動も、この作品で終了となります。6曲中2曲が、この2管での録音。残りはカーメル・ジョーンズ(tp)とジョー・ヘンダーソン(ts)との録音になります。シルバーの代名詞と言えるタイトル曲は、新しいメンバーでの録音です。

 さてあまり馴染みのないカーメル・ジョーンズについて、少し触れておきます。1936年カンサス・シティ生まれの彼は、ローカル・バンドで修業したのち、1961年にLAに進出。バド・シャンクなどと活動した後の1964年には、NYに進出。このシルバーのバンドに迎えられたのです。しかしその活動期間は短いもので、翌年には欧州に活動の場を移したのでした。ジャズ・ファンにとっては、カーメル・ジョーンズの名前に触れるのは、この作品だけという方が、多いことでしょう。

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 何でもシルバーは、カーメル・ジョーンズとジョー・ヘンを徹底的に鍛え上げてこの録音に臨んだそうです。

 やはりタイトル曲での、影のあるブースのメロディを、シルバーのソロとリフで楽しめる内容です。2管はアンサンブルが主要な役目。ソロ・スペースを与えられたのはジョー・ヘンだけ。やはりカーメルはシルバーとの活動の中で自身の限界を感じて、欧州に渡ったのでしょうか。

 この曲に話を戻すと、シルバーのコメントに次のようなものがあります。「みんながよくやるダバダ・バダではなく、本場のボサ・ノバのフィーリングを、この曲では採り入れたかった」と語っており、やはりこの録音への準備の入念さが伺えます。

 さてLPでいうところのB面にも聴き所が満載。1曲目の『ケ・パサ』は、異文化の神秘さに触れた気分をメロディにしたような曲です。またベースのアレンジにひと工夫加わっており、より神秘さが増している演奏となっています。次の曲はジョー・ヘン作の『ザ・キッカー』です。ジョー・ヘンがこれをタイトルにした作品を録音するのは、これから3年後のこと。恐らくはこのファンキーな曲の初演が、この作品なのでしょう。

 最後はミッチェルとクックのセッションでの『ロンリー・ウーマン』です。同名異曲で、シルバーのオリジナル。これはピアノ・トリオで演奏されています。言葉を選びながら、人生の孤独感を演奏しているスロー・ナンバーです。ピアニストとしてのシルバーの真骨頂が聴ける内容で、シルバーのトリオ演奏の中でも、特筆されるべき演奏と言えます。


 シルバーの再出発となる作品で、内容はかなりの高さ。しかしこの後のシルバーが発表する作品の内容を考えると、複雑な気分になります。