ベン・ウェブスターの単独名義の作品と言えば、本作品が真っ先にあがることでしょう。1930年代にエリントン楽団で一躍名声を手に入れた彼は、その後は自分のバンドを中心に、JATPのツアーにも参加しておりました。48歳のベン,32歳のピーターソン,36歳のハーブ・エリス,31歳のレイ・ブラウン,そして32歳のスタン・レヴィとの録音です。
さて本作品の私の想い出を一つ。
私はマレーシアのペナンに2度住んだのですが、最初に住んだ時、2001年の話です。ペナンで当時人気のショッピング・センターと言えば、アイランド・プラザでした。そこに小さなオーディオ店があり、日本食屋さんでよく一緒に飲んでいた仲間が小さなスピーカーを購入したく、彼が探したものが置いてあるこのオーディオ店に一緒に行くことになりました。
店主はそこで何故だかレコードの音質がCDより優れていることを示すために取上げた作品が、本作品でした。CDとレコード、両方共に日本プレスのものでした。私はレコード音質絶対論者とは、適当に話をごまかすことにしているので、デジタル・リマスターしたLPでは意味無いだろうとは言わずに、笑顔で話ではなく音楽を聴いていました。
思っていたことは、ジャズの香りを探すのに苦労するペナンにおいて、この50歳ほどの店主のようにジャズを好きでいる人がいることに感心したことです。
ジャケに写る思いつめたベンさんの顔、これを見る度にあの時の1時間を思い出します。
ジャズに限らずロックでもそうでしょうが、存在感で聴く者を圧倒させるのが、一流のミュージュシャンというものでしょう。
ここで聴けるベンさんのテナー・サックス演奏がまさにそれ。スタンダードの「Lover Come Back To Me」も良いものですが、ベン作のブルースが続く「Soulville」「Late Date」が、その意味で圧巻の演奏です。バックの良さと共に、永遠に残る演奏をしております。
さて先に触れたオーディオ店が入っていたアイランド・プラザは、今は寂れた存在になっています。その後にできた3つの大型ショッピング・センターに完全に置いていかれました。この作品が輝いていたオーディオ店も、どこに移ったのか分かりません。
ジャズ界にもいろんな波が押し寄せ今に至る訳ですが、その中で今でも輝いているのは、この1950年代の作品達なのでしょう。この作品に触れると、どうしても頭がそこに行ってしまいます。