私がジャズを聴き始めた1980年頃には、この作品は名盤とされていました。しかし封入解説の佐藤氏のコメントにもある通り、この作品が発売された時には、日本にはごく僅かな枚数しか入手しなかったことでしょう。ジャズ喫茶ですら、この作品を仕入れた店は数少なかったはずです。また短い活動期間で消滅したレーベル故、再プレスなどななかったはず。本来ならば、この作品は一部のジャズ喫茶で耳にした方だけの記憶で終わった作品なのです。
しかし1970年代に入って、日本で幻の名盤ブームが巻き起こりました。そんな中で奇跡的に一般のジャズ・ファンの元に、この作品は転がり込んでいったのです。このブームで世に出た作品は多いのですが、幻が取れても名盤扱いされている作品は、数少ないもの。
ウォルター・ビショップJrの初リーダー作であり、ジミー・ギャリソン(b)とG.T.ホーガン(d)とのトリオで吹き込んだ本作は、幻が取れても名盤として日本で聴き継がれている作品であります。
1940年代にビ・バップのピアノ演奏するようになったビショップのアイドルの一人が、ナット・コールでした。そのコールからビショップは、テクニックとスピードが全てではなくシンプリティな中に本当の美しさがると、と教わったそうです。
そんなことがこの作品の中に入っています。『Sometimes I'm Happy』はレスター・ヤングの演奏で、『Blues In The Closet』はパウエルでというように、この作品に収録されている6曲は、いろんなミュージュシャンの熱演がすぐに頭に浮かんでくるスタンダードばかり。それらをビショップは、テクニックとスピードを備えた上で、先のコールの言葉を守った演奏をしております。
そしてそれらの演奏を支えているのが、ギャリソンのベース。翌年にはコルトレーンに迎えられるギャリソンですが、それが理解できる好バッキングを繰り広げています。
今回聴いて最も心に残ったのが『Green Dolphin Street』でした。ゆったりとバラッド曲のようにビショップが弾き始め、やがてギャリソンのリズミカルでありながら重たいベースに引っ張られながら、ビショップはテンポをミディアムに変えてこの曲の持ち味を引き出していきます。その際に、若干狂気じみた演奏をビショップがみせていると感じるのは、私だけでしょうか。そんな思いを抱いた直後にギャリソンのアルコ・ソロ。そんな展開で10分近い演奏が繰り広げられます。
他の曲も熱演ばかり。素敵な作品であります。