ダニエル・ザミールの2008年録音作品ですが、メンバーは次の通りです。Uri Caine(p), Greg Cohen(b), Joey Baron(d)の三人との演奏です。
ここで注目すべきは、ピアノのウリ・ケインでしょう。私は彼の作品には馴染みが薄く、「今日の1枚」では1997年録音作品を1枚取り上げただけです。その際にはネット上に彼の経歴などは見つけられませんでしたが、今ではWikipediaに彼のページがあります。それによればウリ・ケインは1956年にアメリカに生まれ、1981年からプロ活動を始めました。その活動はジャズだけではなく、クラシックにも及んでおり、マーラーへの造詣も深くドイツのマーラー協会からの受賞もあるほどです。そしてその活動の中に、1993年からのクレズマーへの関わりもあり、また2000年代に入るとジョン・ゾーンとも活動をしておりました。
その意味ではウリ・ケインがダニエル・ザミールと演奏するのも、自然の流れなのでしょう。ザミールは本作品では、ソプラノ・サックスだけの演奏となっています。また本作は、ジョン・ゾーンがプロデュースしています。
ザミール節が目一杯詰まった10曲の演奏、胸に迫ってくる演奏の63分です。ある意味では「同じような」演奏が続くため、聴く側に飽きがくるものですが、飽きさせる隙間を与えていない圧巻の演奏となっています。そしてそれはザミールの個性にピッタリとハマった、リズム人の切れ味の良い縦揺れによるものであり、また冷めた中の優しさを感じるウリのピアノにもよるものでしょう。
私が観た2015年のライブでも演っていた(であろう)「Nine Minute (or so) Chabad nigun」でのスピード感の8分、そしてライナーノーツでザミールが「a very natural and spontaneous way」に演奏できたと述べている郷愁たっぷりのタイトル曲での3分間、この最後の二曲だけでもこの作品の存在価値があると言えるのでしょう。
ライナーノーツには「創世記」から三つの引用が記されています。そちらの方がベースにある人ならば、もっとこの作品の意味合いを感じ取れるかなと思いながらも、音楽にはそれを超えたパワーがあることも実感しながら本作を聴き終えました。