コーエン三兄妹のアヴィシャイ・コーエン、トランペット奏者のアヴィシャイ・コーエンの、初リーダー作です。録音は2001年ですが、フレッシュ・サウンドのニュー・タレント・シリーズとして発売されたのは2003年の事でした。John Sullivan(b) と Jeff Ballard(d)とのトリオでの演奏ですが、七曲中三曲に Joel Frahm(ts) が参加しています。アヴィシャイの自作の曲が並んでいますが、コルトレーンとオーネット・コールマンの曲が一曲づつ演奏されています。
ジャケットの写真が気になります。キッチンでトランペットを分解清掃しているアヴィシャイの姿があり、トランペット本体はシンクに立てられています。自宅アパートでのシーンかと思いますが、内ジャケにある写真を見ればお店のキッチンのようです。NYでの録音なのでNYのお店かと思いますが、タイル壁にある電源口からすればイスラエルかもしれません。またここはライブを行うお店で、出番前に楽器のお手入れなのかもしれません。
さて演奏を聴いてみます。
オーネット・コールマンの衝撃作「Tomorrow Is The Question」にある「Giggin'」は、アルバムの中で目立つ曲とは言えませんが、その曲名の意味通りに「激しさ」に軽快感を加えた内容です。アヴィシャイは本作でこの曲を取り上げており、リズムの激しさの中で刺激的なトランペット演奏をしています。ピアノレス編成をうまく活かした演奏が、印象的です。
コルトレーンの「Transition」というアルバムは、コルトレーンのリーダー作は20枚ほど持っていれば良いや、との方には縁の無い作品でしょう。コルトレーン没後の1970年に発売されたもので、注目度は低い作品です。しかしながらこのアルバムに愛着を抱いている方々も多く、私もそんな端くれの一人です。愛着を抱く理由はそれそれですが、美しいバラッド「Dear Load」の存在は、その理由の大きな一つと言えます。アヴィシャイは本作でこの曲を、美しさを儚さの中に見出すような演奏をしています。コルトレーンのそれではマッコイの役割を、アヴィシャイはベースの弓弾きに置き換えています。
本作品を改めて聴き直すと、アヴィシャイさんはこの「刺激さ」と「儚さの美」をテーマにしての、曲作りと演奏を行っていると感じました。彼のとってコルトレーンとコールマンは、アイドルなのでしょう。そして「Giggin'」と「Dear Load」は、彼が愛してやまない曲なのでしょう。「私は大好きなこの世界を表現していくトランペット奏者になる」とのアヴィシャイさんの強い気持ちを感じる、初リーダー作品です。