「けっして成功作とは言いがたいアルバム」(資料03)と、本作品には厳しいコメントが付き纏います。「(このセッションの)特筆すべき点は、後年、(コルトレーンの)もう一つの顔となったソプラノ・サックスの初使用ということのみだ」(資料09)といった具合です。
さてコルトレーンのアトランティックでの2年間のセッションを簡単に振り返れば、次の通りです。
1959年1月、アトランティックへの挨拶代わりにミルト・ジャクソンとのセッションで、「Bags & Trane」。
1959年3月から5月を主にした練りに練ったセッションで「Giant Steps」。
1959年暮れに新しいバンドを探している途中のセッションで「Coltrane Jazz」。
1960年6月から7月の二日間で本作品のセッション。
1960年10月の三日間で第四期カルテットで「 My Favorite Things」「Coltrane Plays The Blues」「Coltrane's Sound」の三作品。
「すでに心はインパルス!」の中の1961年5月に「Ole Coltrane」。
つまり本作品のセッションは、新天地アトランティックでコルトレーンのその時点での理想形の作品(Giant Steps)を作り上げた後に、次は自分の理想のバンド作りとコルトレーンは目標を移し、その模索の過程の一つと言えるのです。
コルトレーンと同様にアトランティックの顔となったオーネット・コールマンが作り上げたバンドを借りて、コルトレーンが理想とするバンドとはを追求しようとしたと、本セッションは言えると思います。
Don Cherry(tp), Charlie Haden(b), Percy Heath(b), そしてEd Blackwell(d)との演奏の本作品は、アトランティックのコルトレーン八作品の最後として、規格番号1451で1966年4月に発売されました。
オーネットのバンドの枠組みを借りて二日間のセッションを行い、結果として「何か」を起せなかったのですから、酷評にも理解できる部分はあります。
自分はコルトレーンの作品は二十枚ほど手元にあればいい、という方にはこの作品は不要なものです。しかし、自分はコルトレーンの軌跡を示す作品を手元に置いておきたい、という方には本作は必須の作品と言えるのでしょう。
この録音から翌年にコルトレーンはインパルス!に移籍し、「アフリカ/ブラス」のセッションを行い、そしてヴィレッジ・ヴァンガードに臨んでいきます。そこへ至る中に、本作の意義があると、私は思っています。
さていくつかの書籍やネットでの情報をみますと、本作はアトランティックが、ドン・チェリーのリーダー作としてセッションを設けたが内容がイマイチでお蔵入り、しかしコルトレーンの人気の衰えぬ高まりに接して1966年に発売した、とのものがあります。情報源が記載されていないのでことの真意は不明ですが、一応ここに記しておきます。