「何とか言ってよ」と題された本作は、ナット・アダレイのアトランティックでの2作目に当たるものです。1960年代前半までは兄と共にリバーサイドに在籍していましたが、倒産以降は兄はキャピトルに、ナットはアトランティックに移りました。アトランティック創設者のアーメット・アーティガンとしては、是非とも欲しいタレントだったのでしょう。本盤はナットの他に3人の管楽器奏者が、録音に加わっております。セルダン・パイエル(ts),JJジョンソン(tb),そしてジョー・ヘンダーソン(ts)であります。この3名をどう活かすか、そしてその中でナットのペットをどう輝かせるか、本作への興味はそこでしょうね。
アメリカの映画を観ていると、1960年前後の地方放送局のバラエティ番組のシーンに出会う時があります。軽快な曲をかけて若者が踊っているようなものです。ナットさんの本盤の「Satin Doll」は、そんなようなアレンジと演奏であります。これは、ナットさんの本意では無かったのではと思います。ナットさんの意思が感じられるのは、最後のナット作の「The Other Side」であります。テンポの良いブルースナンバーであり、管楽器4人のぶつかり合いが聴けます。特にナットとヘンダーソンの強い個性は、本作の聴き所と言えるでしょう。ジャズの方向性が揺れていた時期ですので、制作者と演奏者の迷いを感じるのも、正直な感想です。