2006年8月9日掲載
John Hicks        Is That So?
Timeless原盤     1990年7月録音

 僕にとってのジョン・ヒックスというピアニストの存在は、デビッド・マレイとの活動を通してのものが主になります。今日取上げるピアノ・トリオでのスタンダード作品の録音以前には、ヒックスはマレイの3つのリーダー作品に参加しております。その中でこの1990年には、「Sunrise Sunset」に参加。そして翌年には、3枚のマレイ作品に参加しております。つまり、この作品が吹き込まれた1990年と言うのは、マレイとヒックスの蜜月期と言えるのです。

 今回国内発売されたこの作品には、藤本史昭氏の解説が入っております。藤本氏にとってヒックスは、マッコイ・タイナーの弟子という姿で捉えております。そしてこの作品を見本盤で手にした時には、「こんなバブリーな作品を作りやがって」と思ったそうです。当時の日本はバブルがまだ残っている時期。お洒落にスタンダードを演奏するピアノ・トリオ作品が、街に溢れている時期。ヒックスも、時代に乗りたくて、魂を売ってしまったのかとの思いだったそうです。

 さてメンバーですが、Ray Drummond(b) と Idris Muhammad(d)という手堅い布陣であります。

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 今回発売された国内盤でのタイトルは、「イエスタデイズ」であります。しかし、オリジナルのタイトルは「Is that so?」です。この「Is that so?」でのゆったりしたフィーリングが、曲調にマッチしてなかなかのもの。それでいながら、繊細な持ち味が随所に感じられる演奏です。オリジナル通りにこちらをタイトルにして、国内発売すればよいのにと思いますが、やはり「イエスタデイズ」の方が売れるのでしょうか。

 全体に渡って、「Is that so?」での良い雰囲気が随所で聴ける作品です。ドラムの演奏も冴えており、特にブラシが効果的。マレイの作品でのヒックスは真剣勝負の様相ですが、この作品では、ジャケ通りに素敵な笑顔での演奏です。ヒックスの別の一面がこの笑顔を通して、ピアノ・トリオの好盤の誕生に繋がったと言えるでしょう。