1962年8月27日にデクスター・ゴードンがBNに吹き込んだのが、「go」であります。ダウン・ビートのレコード評で、最高点を獲得した作品とのこと。そしてその二日後の8月29日に吹き込まれたのが、本作品であり、メンバーも二日前と同様であります。ソニー・クラーク(p),ブッチ・ウォーレン(b),ビリー・ヒギンズ(d)という面々です。
この録音の後、ゴードンは活動の場を欧州に求めました。ゴードンにとって暗黒の時代であった1950年代に対して、1960年代のゴードンは、BNに吹き込みを開始し、順調に活動を再開しておりました。しかし、キャバレー・カード没収などの問題などで活動に大きな制限を受けており、それが欧州に活動の場を求めた理由でありました。
『until the real thingscomes along』は、1931年に作られた曲ですが、女性歌手が数多く取上げてきた曲です。ビリー・ホリデイやエラで知られていますが、有名スタンダードとは言えないものでしょう。楽器モノでは数えるほどしか取上げられていない曲らしいのですが、その数少ない中で光っているのが、本作品におけるデクスターの演奏であります。
デクスターにとって光が当たらなかった1950年代に登場したスター・テナー奏者と言えば、ロリンズにコルトレーンであります。この二人にとってデクスターは大先輩で、多かれ少なかれ影響を受けたお方。そんな二人の演奏を、デクスターは吸収していったのです。多くの方が指摘するこの事実は、デクスターの懐の深さと、常に物事を追求していく熱心さの表れと言えるでしょう。その上でデクスターの貫禄のある豪快なスタイルが継続されているのは、流石と言えるものです。
余り取上げられないこのバラッドを切々と吹くデクスターに、誰もが心を奪われるものでしょう。またバラッドのスタンダードと言えば、『don't explain』という有名曲も取り上げています。ここでもデクスターの寛容さが光っている演奏です。ソニ・クラの少し暗さのあるピアノとデクスターの豪放さは、良くマッチしており、それはバラッドだけではありません。デクスター作の『soy califa』というカリプソ調のお祭曲でも、この二人の色合いが面白い効果を発揮しております。
この後デクスターは欧州の地で、BNに作品を吹き込んでいきます。その第1弾は、名盤『our man in paris』です。この時期のデクスターの好調さは、アメリカにいても、欧州にいても、変わりないものだったのです。