ほぼ半年間隔での録音というリズムは崩れて、「Sony's Dream」から2ヵ月後の録音作品であります。メンバーは、エディー・グリーン(p),ボブ・クランショウ(b),そしてアラン・ドウソン(d)であります。
ここでピアノのエディーについて、簡単に記します。1991年に国内発売されたCDを持っているのですが、そこでは悠雅彦氏が解説を書いておりますが、恐らくは1970年頃に国内発売されたLPの解説が、使用されています。
そこではエディーに関しては、フィラデルフィア出身の若いピアニストであり、パット・マルティーノの「イースト」での演奏で脚光浴た。男性的タッチが魅力で、今後が期待されるピアニストと、書かれてます。しかし、僕が愛用している「新・ジャズ人名辞典」には、エディーは記載されていません。そこを考えると、1960年代後半にパットやクリスの作品で少しは注目されたが、その後消えて行ったピアニストとなるのでしょう。ネットで調べても殆ど情報が無いのですが、この仮説からしたら驚くべき情報が一つありました。何と1994年にインタープレイ・レーベルから、リーダー作を出しているのです。ということは、注目はされなかったけれども、地道に活動してきたピアニストなのでしょう。
エリントン作のタイトル曲におけるクリスのソロの爆発振りは、気持ちいいもの。しかし、前4作での本人が心から楽しんでいるソロに比べると、盛り上げるための演奏という感じがしてしまいます。他にもロリンズ作の曲やビートルズの曲など、クリスの熱の入ったソロが聴けそうな曲があるのですが、何か気持ちの入り方が足りない感じです。
そんな中で聴き所となったのが、『when the sun comes out』という、決して目立つことのないバラッドであります。ひっそりとしたこの曲を、派手さを一切抑えて、感情の微少な揺れ動きを巧みに表現したソロを、クリスは披露しております。そんな意味では、『the masquerade is over』も、同様な感じです。今までに聴けなかったクリスの姿を、確認できる作品と言えるでしょう。
エディー・グリーンのピアノですが、確かに切れ味の良さはなかなかのもの。ジャズ・フィーリングも、期待を持たせるもの。この録音以降目だった活動が無かったのは、この後シーンにフュージョンの嵐吹き荒れる状況になったことなのでしょう。自分のやりたい音楽が出来る場所を求めた結果、地道な場面しか得られなかったのでしょう。
さてクリスはこの録音の後に、ニューポート・ジャズ祭に出演し、喝采を浴びたそうです。しかしその後精神的に不安定になり、演奏活動を中断しておりました。1969年にプレスティッジ最後の作品「I'll Catch The Sun!」を吹き込んだりと、少しの活動は行っていたのですが、本格的復活を得るのは、1970年代中頃となったのでした。