2006年7月8日掲載
Sonny Criss       Sony's Dream
Prestige原盤         1968年5月録音

 クリスのアメリカ復帰後の第5作目の、ほぼ半年間隔を守ったものです。

 前までの4作は、ギター入りクィンテットが1作あったものの、全てがワン・ホーン作品。そして今回は、総勢11人編成の録音です。Conte Candoli(tp),Dick Nash(tb),Ray Draper(tu),David Sheer(as),Teddy Edwards(ts),Pete Christlieb (bars),Tommy Flanagan(p),Al McKibbon(b),Everett Brown Jr.(d)というメンバーであります。

 そして全6曲のアレンジは、ホレス・タプスコット。クリスの一連の作品でタプスコットと言えば、「Up, Up and Away」で取上げられた『this is for benny』が思い浮かびます。1991年に国内盤CDでこの作品を買ったのですが、解説は岡崎氏。そこでクリスとタプスコットの関係について説明されております。

 タプスコットはLAで1960年代にパン・アフリカン・ピープルズ・オーケストラを組織して、活躍していたとか。その時のメンバーには、アーサー・ブライスやボビー・ブラッドフォードもいたようです。そんなタプスコットと、NYとLAで活動していたクリスが出会い、クリスは良い刺激を受けたようです。やがて1967年にクリスは本作品に至るバンドを結成し、リハーサルを重ねていたようです。そこにはピアノ奏者としてにタプスコットも参加していたとのこと。そんな流れが、この作品となったのです。

 さて、この作品には、「birth Of The New Cool」とサブ・タイトルが付いております。勿論、マイルスの作品から持ってきたのでしょう。しかしマイルスのそれと、クリスのスタイルは相容れないもの。そんな事も念頭に置きながら、久し振りに、恐らくは15年ぶりに、聴いてみます。全6曲、タプスコット作であります。

20060708

 久しく聴いていなかった理由は、大編成が好きではないからです。プレスティッジ収納箱でクリスの作品を見ながら、大人数ということで避けていたのでしょう。そして今回久し振りに聴いてみると、ソロは殆どクリスが独り占めしております。その意味では、クリスを聴きたいという目的ならば、欲求不満にはならないでしょう。

 『バラッド・フォー・サミュエル』は、バラッド・ナンバー。クリスはソプラノ・サックスを吹いており、過去を後悔しているような無念さが、感じ取れます。クリスの豊かでストレートな歌心にピッタリ合った曲です。タプスコット独特のメロディにも感心しました。一つ言えば、大編成でのアレンジに気が行ってしまう場面が多く、メロディの良さと、クリスの演奏の素晴らしさを、覆い隠してしまう感があります。でもこれは、大編成嫌いの人間の感想なのでしょう。

 さてサミュエルとは、クリスやタプスコット、デクスターやファーマー等をを教えていたジェファーソン・ハイスクールの音楽の先生のお名前。他の曲も、偉大な黒人指導者や、友人の名前などがついております。それらの曲も良いものがあるのですが、やはり僕にはコンボで聴きたかったと思ってしまう内容です。クリスの演奏が楽しめる内容ですが、編成への興味度合いで判断されていく作品なのでしょう。最後になりますが、サブタイトルへの意味合いは、私の中ではマイルスのそれと結びつきませんでした。