このCDを僕は、6000千円で買ったのです。2枚組みとはいえ、今の水準からしたら、かなりの割高。しかし1987年頃は、こんな価格水準だったのです。
この6000千円の2枚組みCDには、「Complete Edition」とサブタイトルが付いております。その理由は、この作品の生い立ちに関連しております。3つのセッションから収録されている作品なのですが、当初はディスカバリー・レーベルから、「Art Pepper」と「Art Pepper Quintet」と題された2枚の10吋盤で発売されたのでした。
この2枚の10吋盤には16曲収録されておりましたが、その後サヴォイが原盤を買い取り、2つの12吋盤で発売したのです。「Surf Ride」に12曲、「Two Altos」に4曲が収録されていました。その後に別テイクが次々と発掘され、幾度の経緯を経て、1987年に16曲41テイクを収録して、2枚組みCDとして発売されたのです。
さて、3つのセッションは、1952年3月に4テイク,1952年10月に15テイク,そして1954年8月に22テイクという具合でした。この間隔の空いている理由は、ペッパーの麻薬によるものだったそうです。ペッパーにとっての初リーダー作になるこの作品は、ペッパーの最高傑作だという方が多い作品でもあります。
1954年8月のセッションに「シナモン」という曲があり、てっきり麻薬更生施設のことかと思いました。しかし、あれはシナノン。1969年のことで、この前後で、ペッパーの音楽が変わってきております。
で、「シナモン」。アップ・テンポなペッパーのオリジナル曲であり、ウエスト・コースト・ジャズのスターになっていく要素がたっぷり入った演奏です。この時期のペッパーを評して、パーカーとコニッツの中間的スタイルの中に自分の個性を確立していったと、大和明氏は述べております。僕の感じ方は、女性的な語り口調のアルト奏者というもの。コメディアンで言えば、欽ちゃんのような語り口。たけしのような口調のサックスを好んでいた購入当時としては、その正反対のジャズに興味を持って、この作品を買ったのかもしれません。
さてこの口調は「ナツメグ」というペッパーのオリジナルでも、存分に表れております。この「ナツメグ」は、マリファナの代用に用いられる植物だとか。ペッパーがこの時点で音楽から、そして人生から陶酔感を得られていたならば、彼の人生は変わったものになったことでしょう。
しっかりと自分の個性を確立している初リーダー作品であります。