いつの時代にも、どの場所にも、不思議少女と言うか、芸術妄想女性というのがいるものでしょう。「私、飛べるの」なんてことを、突然言い出すような女性である。ブリジット・フォンテーヌは、まさにそんな雰囲気の人だと、この作品を買う前から感じておりました。彼女の経歴は、次の通り。
1939年にブルタンニュ地方に生まれ、18歳のときにパリに移り、ソルボンヌ大学に入学。しかし、入学してすぐにMJQの演奏を聴いて何かに目覚め、あっさりと名門大学を止めてしまう。しかし音楽の道には進まずに、劇団に入って芝居の勉強を始めたのですが、それは長続きせずに、一人部屋にこもって作詞の勉強を始めたのです。
ここまでの展開は、まさに芸術妄想女性そのもの。しかし芸術妄想女性群の中のほんの一握りに、本当の芸術の才能があるもの。ブリジットもそんな一人だったらしく、前衛的なものを売りにしているキャバレーのオーディションに受かり、彼女は歌い始めました。前衛が集まっている中でも、彼女は歓迎される存在ではなかったらしいのですが、やがて少しの注目を浴びる存在になっていきました。そしてチャンスをものにして、レコーディングの機会を得たのです。
因みに1987年にこの作品を買った理由は、芸術妄想女性に興味を持ったのが2割。AEOCが演奏していることが、8割の購入理由でした。
フリー・シャンソンというべきブリジットと、フリーをかなり薄めたAEOCが交わり、ギリギリの線で展開し、不思議な作品に仕上がりました。両者のフリーの度合いが少しでも変わっていたならば、注目される内容にはならなかったでしょう。
曲によってAEOCのどのメンバーが強く関わるかが変わっております。トランペットのレスター・ボウイが強く関わったタイトル曲が、秀逸な出来になっています。
作曲者は全曲アレスキーという方なのですが、この「ラジオのように」と日本語タイトルが付いている曲での、耳に残るメロディは印象的なもの。もしこの曲が無かったならば、ブリジットとAEOCの絶妙なバランスを持ってしても、これほどの注目を浴びる作品にはなっていなかったことでしょう。