アン・バートンがプロ歌手になったのは、1955年頃のことで、ドリス・デイのよう歌っていたらしいです。その後、ビリー・ホリデイのレコードを聴いて、自分独自の世界を追求しようと決め、あまり経済的には恵まれない中で、欧州各国のクラブや米軍キャンプで歌っていたそうです。
そんな彼女が、この作品でついに独自の世界を表現できたのでした。1970年に「バラッズ&バートン」と共にこの作品が日本で発売されたのですが、その仕掛け人はドクター・ジャズ内田修氏だったとのことです。「バラッズ&バートン」同様に、ルイス・ヴァン・ダイクのピアノ・トリオがバックを務めています。
解説の青木敬氏によれば、彼女は歌う選ぶ時には、メロディよりも詩に重点を置いているとか。下積み時代の12年間で求め続けた自分の世界とは、言葉による表現だったのでしょう。バラッド中心の選曲も、そんな理由からなのでしょう。しかし言葉が分からなくても、彼女の表現はひしひしと伝わってきます。例えば、キャロル・キングのヒット曲である『go awasy little boy』では、叶わぬ恋の切なさが伝わってくるものです。それはスタンダードの『he wass too good to me』『but not for me』でも同様のことです。
また録音バランスの良さも秀逸。ブラシによるシンバルが強いのですが、しかしバートンと適切なバランスで成り立っているのです。これはベースでも同様のことが言え、バックの楽器を最大限に活かしながらも、歌とのバランスを絶妙に保った録音です。
長い間、自分を信じて自分を探したバートンさん。そして最高の録音チャンスを得て、見事にものにしたバートンさん。この吹き込みの後に彼女を待っていたのは、オランダのグラミー賞と言われるエジソン賞の受賞、そして日本での熱烈な歓迎でありました。