1955年7月からリバーサイドでレコード制作を始めたモンクは、「プレイズ・デューク・エリントン」と「ブリリアント・コーナーズ」、そして「ユニーク」という3枚のアルバムを完成させていました。この時期はモンクとレーベルのオーナーであるオリン・キープニュースの蜜月時代と言えます。そんな時期に吹き込まれたソロ・ピアノ作品が、この「セロニアス・ヒムセルフ」です。録音は1957年4月5日と16日に行われました。
A面
April in Paris(1957年4月16日録音)
Ghost of a Chance(1957年4月5日録音)
Functional(1957年4月16日録音)
I'm Getting Sentimental Over You(1957年4月16日録音)
B面
I Should Care(1957年4月5日録音)
'Round Midnight(1957年4月5日録音)
All Alone(1957年4月16日録音)
Monk's Mood(1957年4月16日録音)
多くのジャズ・ファンはジャズを聴き始めてから早い時期にこの名盤を聴き、そして誰もが「ソロ・ピアノ作品になぜサックスとベースが?」と思ったことでしょう。私もその一人です。
4月16日に録音され、この作品に収録された5曲の中の「Monk's Mood」に、テナー・サックスのジョン・コルトレーンと、ベースのウイルバー・ウエアが参加しているからです。
1987年度グラミー賞で最優秀アルバム・ノーツ賞となったオリン・キープニュースの文章によれば、このソロ・ピアノ・アルバムにサックスとベースが入った「Monk's Mood」を収録するのはモンクの申し入れであり、キープニュースは「非合理な提案をしてきた」と受け取ったそうです。
ピアノという楽器による表現の広さ、そしてモンクが突き詰めていく感情の奥深さが、この作品に詰まっています。多くの方々の絶賛の言葉の全てに納得するものです。またレコーディング・エンジニアのジャック・ヒギンズの録音の素晴らしさも、特筆ものです。
さてコルトレーン入りの1曲についてですが、この作品を、モンクを、そしてコルトレーンを長年聴いてきても、私にはこの作品に収録したのかが分かりません。例えば6月26日に録音し、アルバム「モンクス・ミュージック」に収録された「クレパスキュール・ウィズ・ネリー」のように、ホーンをアンサンブルだけで使っているなら、私にはソロ・ピアノにホーンが入った理由が分かるのかも知れません。
凡人の私の意見などはさておき、このアルバムのライナー・ノーツでオリン・キープニュースは次のように書いています。
「これはサウンド的にアルバムの統一感に水を差すものかもしれない。しかしセロニアスは完璧にフィットしていると主張した。そしていつもの通り、彼は音楽的な点で間違っていなかった」