数多くの作品を2004年に亡くなるまで発表し続けたソプラノ・サックスのスティーヴ・レイシーですが、この作品が吹き込まれた1987年も他に6作をレコーディングしています。
Jean-Jacques Avenel(b)、Oliver Johnson(d) とのトリオで収録された本作品、ネット上では語られることが少ない作品を、今日は聴いてみます。
曲名を頭に置きながら聴いてみました。
A面1曲目はアルバム名でもある「The Window」、そこでの演奏はレイシー・スタイル全開のトリオ演奏です。頭に浮かぶのは、年季で曇り、落書きもありで、外の景色を満足に拝めない窓、でも不思議なフィルターになっているものです。
2曲目は「Flakes」で、続きで考えれば「(雪の)ひとひら」との意味なのでしょう。レイシーの高音でのリフが頭に残る演奏で、それは雪が僅かに落ちてきている様子のようです。ガラス窓越しだと美しくは感じないけれど、これは頭の中で雪のキラキラを想像しろとの演奏の仕掛けなおでしょうか。
A面の最後の曲は「A Complicated Scene」、「複雑な場面」が直訳となります。ドラムスの静かなバッキングを背にして、思いのままに吹き続けるレイシーの演奏です。いくつもの場面が折り重なっている様子を、描きたかったのでしょう。
B面1曲目は「Twilight」で「たそがれ」、日没前の色の変化を表現している演奏なのでしょう。B面2曲目は「The Gleam」で意味は「きらめき」ですが、ここでは窓ガラスに反射する光の変化をドラムスを巧みに使って、レイシーは表現しています。
困ったのが最後の「Retreat」、この単語はいくつもの場面で使えるものです。メロディなのですが、故郷のお袋を思い浮かべる演歌のようなものです。日本には何度も来ているレイシーなのですから、どこからか耳にしたメロディを参考にしたのでしょうか。しかしながら「窓」から始まったアルバムの最後で、この演奏で曲名が「Retreat」、相応しい日本語訳が見つかりませんでした。
この作品はレイシーのアルバム群の中では完全に埋もれた一枚なのでしょうけれど、それなりに楽しめる1枚です。