本作はベース奏者のアヴィシャイ・コーエンが、初めてピアノ・トリオとの形で吹き込んだ作品とのことです。ピアノ奏者は録音当時21歳のシャイ・マエストロ、そしてドラムはマーク・ジュリアナです。
私はこの作品を去年の7月に、Amazonの中古で購入しました。出品者はディスクユニオン大宮店でした。配達された本CDを手に取り、随分と安いつくりだと思ったものです。何しろ紙のペラペラしたジャケです。紙ジャケと呼べるものではなくペラペラ、そしてCDが直接入っており、ブックレットは無し。今回に改めて本作品を手にしてクレジットを見ましたら、「Promo only - not for sale」と書かれていました。試供品が中古市場に出回ることはLP時代からよくあることですが、ディスクユニオンほどの店が、何の断りも入れずに、筋論から言えば業界の裏切り行為をしたのかと、少し呆れました。
余談はこの程度として、本作品を聴いてみます。
郷愁の心を弄ぶかのマエストロのピアノ、アヴィシャイの仕掛けで三人一体で繰り出すリズムのうねり、そしてアヴィシャイのベースの音の響き、これらが重なり合って、ピアノ・トリオ・スタイルの名作となっています。
11曲全てにコメントしていきたいのですが、4曲ほどに簡単に感想を。
3人の共作の「Eleven Wives」では、人生で何度か経験する目紛しいタイミングのような、スリルある疾走感の演奏です。続くアヴィシャイ作のタイトル曲では、ベースとマエストロの左手が骨太で絡み合いながらスローなテンポで、人生に甘えたくなるような瞬間を描いています。
この作品に二曲、トラディショナルとクレジットされている曲があります。「Lo Baion Velo Balyla」、そして「Puncha Puncha」での演奏は、先に述べたこのトリオの魅力が凝縮されたものでした。