コルトレーンはアトランティック・レーベルに、1959年1月から1961年5月にかけて、12回のレコーディングを行いました。それらの演奏は、1960年1月から1966年4月にかけて、8枚のオリジナル・アルバムで発売されました。
今日取り上げる大名盤「ジャイアント・ステップス」は、その8枚の最初に発売されたもので、1960年1月に「1311」との規格番号で発売されました。
収録されている演奏は、1959年5月4日から「Countdown」と「Spiral」、翌日5月5日から「Giant Steps」「Cousin Mary」「Syeeda's Song Flute」「Mr. P.C.」、そして12月2日から「Naima」が収録されています。
最後の録音の翌月にアルバム発売、その最後に録音した「Naima」は5月5日にも録音していたがテープ紛失、コルトレーンにそれなりの契約金を払ったアトランティックだが第一弾は契約から10カ月後、これらの事実から私が考える「ジャイアント・ステップス」発売までには、次のようなお話があったのでしょう。
1955年からのプレスティッジ時代でコルトレーンは、ハード・バップの中で多くの経験をし、そして演奏かとしての自分を大きく前進させましたし、コルトレーン自信がそれを大きく感じていたことでしょう。その中で徐々にプレスティッジが準備するレコーディング環境では実現できないアイディアに、コルトレーンは包まれていきました。そんな葛藤は1958年5月23日のセッションに聴くことができます。
私はこの時期にコルトレーンの頭の中にあったアイディアが、「ジャイアント・ステップス」だったと思います。そのアイディアの実現のためには、自分の思うメンバーで、自分の演奏したい曲を、しっかりと準備した環境が必要でした。それはプレスティッジでは叶うことではなく、違う環境が必要となりました。恐らくは1958年5月にはプレスティッジとの契約更新はしないことをコルトレーンは決め、そしてアイディア実現のための準備を始めたのでしょう。
それから半年後の、アトランティック最初のレコーディングがあり、それはアトランティックが用意したミルト・ジャクソンとの双頭セッションでした。恐らくアトランティックもコルトレーンも最初の作品は強力なものにしたく、その意味ではミルトとのレコーディングは弱いもので、コルトレーンのアイディアの実現に両者が一致したことでしょう。
3月26日には「Giant Steps」や「Naima」といった、コルトレーンが温めていた曲を、多くのテイクを重ねてのレコーディングを行いました。しかしピアノのシダー・ウォルトンは、あくまでコルトレーンのアイディアという意味では当てはまらない演奏内容だったこともあり、3月26日の演奏はボツとしました。そして5月に入り、ピアノをトミー・グラナガンに、ドラムをアート・テイラーに替えて、ポール・チェンバースと共に二日間のレコーディングを行いました。それは手応えのあったものでした。これでアトランティック 第一弾の発売に向けて、諸作業が進んでいくはずでした。
9月頃の発売に向けての準備の中で、重要曲「Naima」を消してしまった、という一大事になったのでしょう。アトランティックとしては他にも良い演奏があるので「Naima」無しでの発売を望み、しかしコルトレーンとしては「Naima」無しでは発売できない、そんなやりとりがあったはずです。
再びのレコーディングの準備を行い、しかしながら演奏者を含めて都合が合わず、結局11月24日と12月2日のレコーディング設定となり、ただしメンバーはピアノがウィントン・ケリーに、ドラムはジミー・コブへの交代となり、ようやく「Naima」が録音されました。
やたらと紛失するアトランティックですが、この「Naima」には最善の注意を払い、年が明けてすぐの「ジャイアント・ステップス」、コルトレーンのアトランティック第一弾アルバムの発売となりました。
私の妄想オハナシはここまでとして、大名盤「ジャイアント・ステップス」を聴いてみます。
アルバムの構成が素晴らしい、これは名盤の必須条件です。湧き出すスピード感のA面、生命感が溢れ出るB面、私はこんな風に感じていますが、至極の演奏を見事な配置で聴かせてくれる作品となっています。努力人コルトレーンが偉材コルトレーンになった瞬間が、このアルバムと言えると思います。各曲についてはリンクを貼った「今日のコルトレーン」を、お読みください。
それとこの作品での演奏、特にA面の演奏は、技術的にとんでもない域なのだそうです。その辺りについては、「凄い演奏」としか言えない私には、なんとも歯痒いばかりです。
さて1960年1月にこの作品が発売されましたが、この月にはマイルスの「ing三部作」の三作目「ワーキン」が発売されています。コルトレーンのプレスティッジでのリーダー作をみると、「ラッシュ・ライフ」は一年後の発売となっています。もちろんその後に「セッティン・ザ・ペース」や「スタンダード・コルトレーン」が発売となっていくのです。
当時のジャズ愛好家の方々はコルトレーンを理解するのが大変だったのでは、と思ってしまいます。例えばこの「ジャイアント・ステップス」を聴いてコルトレーンに興味を持った方が、その翌年のコルトレーンの新作が「ラッシュ・ライフ」、そしてライブに行ってみればドルフィーとのヴィレッジ・ヴァンガード、どれがコルトレーンなのか悩んだことでしょう。私もそんな悩みをしてみたかったものです。
話が逸れましたが、A面とB面の色合い、そして曲順の流れも体に染みついている本作品、これは多くの方に言えることだと思います。そして発売から60年を過ぎた今でも再発を繰り返す本作品ですので、本作が体に染み付いた人々をこれからも増やしていくことでしょう。