2019年8月1日掲載
Tadd Dameron        Mating Call
Prestige原盤            1956年11月録音

 高校での音楽学習方法に嫌気がさしたダメロンは医者を志しましたが、カレッジの聴講生の際に切断された腕を見て、再び決心を変えました。「世間には醜いものがいっぱいある。自分は美しいものが好きだ」と、悟ったそうです。(国内盤CD、佐藤氏の封入解説)

 ダメロンの作曲と編曲の才はジャズ仲間では知られたものであり、「グッド・ベイト」や「イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ」などの曲が有名です。

 しかしピアニストとして残した作品は、多くが目立たない存在です。「今日の1枚」では「Fontainbleau」をかつて取り上げましたが、語られる機会が殆ど無い作品です。しかしながら今日取り上げるダメロンの「Mating Call」は、実に有名な作品です。しかしその理由は、コルトレーンの参加にあります。またプレスティッジの12吋初期の作品ということから、オリジナル盤市場で常に高値で取引されていますので、ジャズ専門店の壁に掛けられた本作を目にした方も多いことでしょう。

 本作はコルトレーンのリーダー作ではありませんが、コルトレーン初のワン・ホーン作品ということで好事家から人気を得ている作品でもあります。「コルトレーン特集」でコルトレーン視点のコメントを書きましたので、今日はダメロン視点で本作を聴いてみます。

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 ダメロンは共演者の力を小気味よく引き出す能力に長けた方だと、本盤を聴いて認識できます。本格的なプロとして活動を始めてから1年が経過したコルトレーンの、テナーサックスの演奏に個性が出てきたコルトレーンの良さが、本番に滲み出ています。それは力強い曲でも発揮されていますし、A面の最後とB面の最初に配置されたスローな曲、「Soultrane」と「On A Misty Night」でも言えています。こんな素敵な曲を用意して本セッションに臨んだダメロン、そして期待される逸材の実力を存分に発揮させたダメロンは流石であります。

 「 Mating Call」とは求愛の嘆きとの意味で、ジャケはそんな姿なのでしょう。また「 Mating Call」には仲間に呼びかけるとの意味もあるようです。コルトレーンに上手く呼びかけたダメロン、その呼びかけに輝きを持って応えたコルトレーン、そんな姿を多くのジャズファンは感じ取り、未だに本作を愛しているのでしょう。