4年前の横濱ジャズプロムナードにおいて、穐吉はみなとみらいホールで演奏を行いました。その際にMCで1956年に渡米した時のお話、ご苦労話をされていました。その中で私には「バッファロー」という発言を何度も耳にしました。影響を受けたピアニスト、アメリカで会いたいピアニストとして「バッファロー」と発言していたと感じました。感じたというのは流暢な発音と早口もあり、私がそのように受け取ったという意味です。私は「バッファロー」という名前、「バッファロー」というあだ名のピアニストは全く思い浮かばず、かなり気になったのですが、すぐに演奏が始まり穐吉さんのパワフルで繊細な演奏に心を奪われ、「バッファロー」の件は頭から消えました。
コンサートが終わり自宅へ戻る途中で、私は再び穐吉さんの「バッファロー」発言を考え始めました。穐吉さんが影響を受けたといえばパウエルなのに、パウエルの話が一言もでなかったことを考えた際に、ようやく合点が行きました。
カタカナ表記では「バド・パウエル」、発音に忠実にカタカナ表記するならば「バッ パァゥエル」となるのでしょうか。「バッファロー」とは「バド・パウエル」だったのです。
長々と私の英語聞き取り能力の幼稚さを書きましたが、そろそろ本題。今日取り上げる穐吉さんの作品は、渡米50周年日本公演です。ルー・タバキン、ジョージ・ムラーツ、そしてルイス・ナッシュとのカルテットでの演奏です。有楽町朝日ホールで観客無しで収録されました。
ハード・バップ好きならば、誰もが気に入るであろう1枚、穐吉さんの重たく鋭く華麗に流れるピアノ、入魂のタバキン、もたれ掛かりたくなる穐吉さんの曲。この作品を聴き終えて、褒め言葉は幾つも浮かんできます。その中にあって、日本人ならではの感性が心に突き刺さるのかと感じました。しかし浮かんで来たそんな思いを、まだ消化しきれない自分も感じています。
いろんなことを考える、多くの模様が浮かび上がってくる、そんな思いで聞き終えました。