2018年8月2日掲載
Walter Bishop Jr.          Coral Keys
Black Jazz原盤               1971年録音

 このブラック・ジャズ・ボックスの値段は、29,800円でした。当時の私は4度目の海外駐在開始の時とはいえ、日本での大きな買い物によるローン返済で、金銭的に余裕がない時期でした。過去の海外駐在時ならば気軽に買える値段でしたが、2009年の私にとっては悩む値段でありました。そんな中でこのボックスの購入を決意させたのは、「これはきっと良い匂いするに違いない」とのヒラメキと、「巡り合わせを大切に」との思いからでした。

 BJ/2として発売された第2弾は、ウォルター・ビショップJrの作品です。例の小冊子から本作を紹介します。

 名盤「Speak Low」でジャズ史に名を刻むピアニスト、ウォルター・ビショップ・ジュニア入魂の一枚。ハロルド・ヴィック、ウッディ・ショウなどと、混迷の60年代を生きぬいたブラック・ジャズ・ミュージシャン達が、自らのスピリットを表現していこうという瞬間の歓びと強い意思の力が感じられる作品。冒頭の「Coral Keys」はハロルド・ヴィックのフルートがモーダルなメロディに映える美しいナンバー。ジャズ・ファンク「Soul Turn Around」のダウン・トゥ・アースな渋みも味わい深い。ラストを飾る長尺の「Freedom Suite」はまさに自由を求めんとする音楽家達の叫びが胸を打つ名演。

 この時期のビショップについて誤った道に進んだと評論する方々がおり、その理由としてブラック・ジャズへに残した本作を含む2枚をあげています。

 ハロルド・ヴィック(fl,ss,ts)とウッディ・ショウ(tp)の参加が興味を呼ぶ一枚を、ビショップの自作で固めた本作を、今日は聴いてみます。

20180802

 ハロルド・ヴィックと、後半に登場するウッディ・ショウの演奏は、聴く者の心の底に眠っていた思いを引き出すかのような演奏です。それを仕掛けたのは、勿論ビショップであります。ビショップは作曲を含めて、アルバム全体をプロデュースしたのでしょう。この時期のビショップの進みたかった方向は、この作品だったのだと感じました。

 確かに良作を残して来たビショップを求める人には避けたい演奏なのかもしれませんが、ジャズ混沌期にこのように聴き込める作品を作ったビショップは素敵であり、そんな機会を与えたブラック・ジャズも素晴らしい存在だと思いました。