2017年8月9日掲載
Don Cherry            Brown Rice
A&M原盤                1976年録音

 この作品の出所については、少し不明であります。イタリアのEMIが最初にこの作品を発売したとのことで、日本では輸入盤を通して一部のジャズ・ファンの間で話題になった作品とのことです。その後は世界的に発売されるようになったとのことです。

  私は1980年代半ばに国内盤で発売された際に購入しました。封入解説には青木和富氏と共に、傅進幸氏が解説を書いております。ジャズ好きの多くの方はオーディオにも関心があると思いますので、オーディオ評論家の傅氏のことは既知のことでしょう。今では数が減っているオーディオ評論家ですが、実際に世界中のメーカーを訪問して目で確かめてくる傅氏は、長年に渡って活躍されています。

 その氏が本作に書いた解説とは、ルディ・ヴァン・ゲルダーのことです。氏の知合いがヴァンゲルの録音スタジオを訪問した際に、アンペックスのテープレコーダーのメーターが振りきれていることを冒頭に紹介して、ヴァンゲルの思い切った録音手法について書かれたものです。

 そんなヴァンゲルがジョン・スナイダーと共にデジタル・リマスターを行った盤を、今日は聴いてみます。

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 ローリング・ストーンズの名曲「ブラウン・シュガー」は、女性の陰部を指す隠語であることは有名な話です。このチェリーの作品のタイトル「ブラウン・ライス」にも、何かを指す意味もあるのかと思い調べましたが、それらしき情報は得られませんでした。

 この作品を聴き終えて感じたものは、アフリカの限られた穀倉地帯に立ちながら夜空を眺めて、宇宙に想いを寄せている姿でした。そんなことをチェリーは表したかったのかのと勝手に思って、更には「ブラウン・ライス」にそんな意味があるのではと余計な想像をしてました。

 こんな世界を表すためにチェリーが行ったのは、徹底したスタジオ作業でした。一発録りジャズとは違い、電子楽器を多用した上で、多重録音を行っているのです。これはこれで、チェリーの姿と想いを作品とする必要な手法だったのでしょう。

 最後にリマスターについて、少し述べます。特にロック作品ですが、ここ10年以上、かつての名盤のリマスターが花盛りであります。様々なデジタル手法を用いて高音質を目指したものであります。しかしながら出来あがったものは、ミュージュシャンがオリジナル作成時に表したかったものが、壊されているものが多いのです。デジタル技術発達お披露目ショーのようなことを、感じでしまいます。

 話をチェリーの本盤に戻しますが、リマスターを行ったヴァンゲルとスナイダーは、こんなコメントを本作に残しています。「アナログ録音されたこのアルバムには、もともとのテープ・ヒス・ノイズがあります。我々はあえてこのヒス・ノイズをデジタル・マスタリング中に削除せず残してあります。これはオリジナル・マスターにおけるサウンドを完全に残すための我々の見解でした」とのもの、ミュージシャンと対峙しながら数々の作品を世に出してきたヴァンゲルの録音技術者としての矜持に、頭が下がりました。