2017年5月1日掲載
John Surman           John Surman
Deram原盤                1968年8月録音

 日本における欧州ジャズ・ブームは、このコーナーでも度々取上げる「ヨーロッパのジャズ・ディスク1800」という本が起爆剤になったと言っても良いことでしょう。この本は1998年発刊ですが、1990年代前半から、本当にごく一部の人しか関心が無かった欧州ジャズに少しづつ光が当たり始めました。

 私が長年お世話になっているジャズ専門店の常連さんを眺めても、1990年前半以前に欧州ジャズに関心を示していた方は、オークションで欧州盤を買い漁っていた深海魚のお方、イギリス人の作品だけを購入していた短パンのお方、そして1970年代フリー・ジャズがお好きなメガネの方と、思い出してもその3名しか思い浮かびません。

 それが1990年に入ると徐々にジャズ・ファンの関心が欧州に向けられていきました。そうしますと欧州ジャズのオリジナル盤の需要が高まっていき、当然のこととして値段が上がり、流通するオリジナル盤が増えていきました。ジャズ専門店の壁に展示されるオリジナル盤にも欧州ジャズが増え、6桁の値段と共に、私は初めて見ることになるジャケを拝むようになりました。

 強烈な印象のジャケは幾つもありましたが、今日取り上げるジョン・サーマンのイラスト・ジャケもそんな1枚です。

 1944年にイギリスのプリマスに生まれた彼は、14歳でクラリネットを手にし、高校でバリトン・サックスに転向し、ロンドン音楽大学で学びながら、様々な所で活動しておりました。そして自己のバンドで出演したモントルー・ジャズ祭りで最優秀ソリストを受賞して、一気にその名前が広がりました。そんな彼をDECCA傘下のレーベルが目を付け、初リーダー作である本作品の吹き込みに至ったのです。

 この作品は2つのセッションで構成されており、シクステットと11人編成での演奏となっています。

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 シクステットでの演奏は、アルト・サックスとの2管で、コンガ入りです。そのアルト・サックスは、サーマンの盟友のマイク・オズボーンです。そして演奏内容は何んとカリプソであります。スピード感とシャープな2管の演奏を聴くと、ロリンズがイギリスのジャズ・マンにはヒーローだったのかと強く感じる内容です。何しろロリンズの曲まで取上げていますからね。

 ただし1960年代前半の欧州ジャズのアメリカ追随演奏ではなく、スピードとシャープさで、独自の味わいを出しています。


 一転して大人数編では、静かで詩的な考え込むような演奏になっています。カリプソのサーマンが好きだったジャズ、後半の演奏はサーマンが時代を一歩読んだかのような演奏になっています。この後半の演奏は、イギリスから数多輩出したプログレ・ロックの奏者に影響を与えたのではと思いながら、演奏を聴き終えました。