長期間に渡り一線から消えたミュージシャンは多いのですが、その理由は薬物、或いは経済的理由が多いのです。しかしガーランドはそれが理由ではなく、「ジャズが自分の音楽でなくなってしまったような気がしたから」とのことです。
故郷のダラスに戻り、地元クラブで演奏し、若い人の育成にも力を入れていたとのことなので、変化と競争が激しい黄金期のジャズ界の先頭を常に走った10年間に、ガーランドは心身ともに疲れ切ったのかなと思います。何しろ、故郷に戻る直前まで素晴らしい作品を残していたのですからね。
さて今日取り上げる1枚は、バラッド集として高い人気を得ている作品です。故郷に戻る1年前の録音であり、ラリー・リドレイ(b)とフランク・ガント(d)という新メンバーでの録音です。スタンダード・バラッド8曲の中で、今日はどの曲が心に刺さるでしょうか。
渋いスタンダード「Long Ago And Far Away」は、サックス物だとペッパーで、ピアノだとガーランドのここでの演奏が、ジャズ・ファンがすぐに思い起こすものでしょう。ゆったり流れる望郷の思いを、決してしつこくなく、しかしながら深くガーランドは表現しております。こんな感じが全編で流れながら、惹きつけられるように聴き通す作品に仕上がっています。
アイラ・ギトラーはライナー・ノーツで、次のように述べております。
「全編をテンポを抑え気味にしたこの種のアルバムを吹き込もうというピアニストには、いくつかの落とし穴が待っている。甘くなりがちなこと。華麗になりすぎること。そして口当たりが良すぎることだ」とし、「これら3つのポイントを巧みに避けてみせるのが、簡潔さとエモーションを極めて個性的な融合させているレッドだ」と評しています。
こんな言葉を素直に理解できた、本作品でありました。