15年のブランクを経て「Living Legend」でジャズ界に復帰したペッパーは、続く「The Trip」も高い内容だったので、徐々にですがその復帰は本物だと、ジャズ・ファンの間で思われました。
今日取り上げるのは、復帰3作目です。そして長らくお世話になったレスター・ケーニッヒのコンテンポラリーでの、最後の作品となります。ピアノは前作に続きジョージ・ケイブルス,ベースはトニー・デュマス,そしてドラムはカール・バーネットであります。
「私はいつも歌手に強い共感を抱いていた。特にレイ・チャールスのような歌手の歌い方は、ただ歌詞をなぞるだけではなく、本物の深い情感を表現することが出来る。他にも同じように優れた資質の歌手はたくさんいる。私が好きなのは、ロバータ・フラック,アレサ・フランクリン,ビル・ウィザース,ポール・サイモンなどだ。私がバラッドをやる時、特に人間の声のそういう情感を出そうとする。バラッドのようなソフトで美しいものは、そんな感じで吹こうとしている。それに、私の以前の人生、私が通り抜けてきたことの全てが、心の中に沈潜して、ある種の悲しみになっている。そんな感情もバラッドの中に現れていると思う」。
長い引用になりましたが、ライナー・ノーツでペッパーが語っているものです。本作にそんなペッパーの姿があります。いろんなことを経験してきて、良き時代もあればどん底の時代もあって、僅かな喜びを挟みながら多くの苦しみや悲しさを味わってきて、ようやく表現できるバラッド演奏が聴けます。
ロバータ・フラックの「Ballad Of The Sad Young Men」をペッパーは取上げていますが、この曲での演奏を聴くと、先に引用したペッパーの言葉が自然に理解できます。
「この曲を聴いたのは、車に乗っている時だった。私はその歌に感動し、いつかレコーディングしようと思った。ソウルフルな情感をたたえ、あたたかく美しい曲だ」、この曲に対するペッパーのこの言葉は、そのままペッパーの演奏にあてはまります。
さてこのアルバムは3月に1日で録ったのですが、最終マスターとなる前の11月に、長年に渡りペッパーを支えてきたレスター・ケーニッヒが亡くなりました。ケーニッヒのスタジオで吹き込んだ最後の作品、後期ペッパーを嫌う人からは一層嫌われる作品なのですが、私には先の曲の存在で光り輝く作品であります。