名もない黒人テナー奏者が、ストックホルムの街中で吹いていた。地下鉄の構内で吹いている時に、子供達が珍しがってそれを聴いていたという。「子供達は僕の叫び声を聴いていたんだ」と、後年にアルバート・アイラーは語っている。そして聴いていたのは子供達なかりではなく、ノルドストローム兄弟も、聴いていた。そしてアイラーのレコードを作ろうという奇妙な夢に、この兄弟はとりつかれるようになった。
1962年10月25日、ストックホルムのアカデミー・オブ・モダン・アーツのホールで、レコーディングは行われた。観衆は10人ほどだったらしい。その時の記録は、ノルドストローム自身のバード・ノートというレーベルから「Something Different!!!」というタイトルで発売された。後にソネットから「First Recordings」というタイトルで再発された。バード・ノート盤が発売された時から、Vol.2 があるという噂がマニアの間で広まっていた。実際にVol.2 は発売されていたが、ごく数枚しか発売されていなかったようだ。 1990年になってDIWがノルドストロームと交渉し、Vol.2 の発売に至ったのである。
ここまでが、青木和富さんの解説からの引用です。僕はCDで買ったのですが、LPでも発売していたと、記憶しております。そしてLPはピクチャー盤。さらに、その盤自体がビニールのような袋、とにかく透明な袋に入れられて発売されていました。DIWの説明だと、外からピクチャー盤が見えなければ、ピクチャー盤にした意味が無いとのことでありました。
「音楽は、まだしっかりした形になっていなかった。演奏はした。が、音楽は今のようにすぐ湧いてこず、ゆっくりと湧きあがるばかりであった」
アイラーが後年に語ったこのセッションへのコメント通りの感想が、この盤から聴き取れます。しかしそこには、地下鉄の通路で子供達が感じ取ったアイラーの叫びが、力強い形で存在しております。聴き返す作品ではありませんが、ジャズ界の重要人物の貴重な記録としての存在価値は、永久のものです。