1991年に国内発売されたCDには油井正一氏が解説を書いており、クリスが初来日した1962年前の日本でのジャズ・ブームに触れております。少し抜粋を。
映画評論家と推理小説評論家で有名であった植草勘一氏が50歳を過ぎてジャズに目覚め、雑誌「映画の友」に「モダン・ジャズを聴いた600時間」という驚異的エッセイを発表し、日本の知識層の間でモダン・ジャズが鑑賞されるようになった。これが1958年頃のことであり、1960年1月にビクターから発売された「サンジェルマンのジャズ・メッセンジャース」2枚が驚異的な売り上げを記録し、この秋には蕎麦屋の出前持ちまでが『モーニン』を口ずさんでいたとのこと。
ここまでは油井さんが何千回と書いてきた内容ですが、1962年正月に来日したクリス・コナーの話は面白い。関取級の体格で、歌の方はハスキー・ヴォイスの印象を吹き飛ばす声量豊かな発声であったとか。
さて本盤の話をしましょう。1991年に僕が買ったこのCDが、日本では初発売であったとか。何でもスロー・バラッド中心であることが、その理由であったとか。ストリングス入りのオーケストラをバックにした作品です。
タイトルは「愛している、愛していない」と彼の心境を思い浮かべているもの。何か乙女の心境のようですが、この作品でのクリスの歌は、充分に恋を経験した大人の女性の恋への心境が浮かんでくる内容です。バックのオーケストラの音量が控え目になっており、スローな展開の中でクリスの声が迫力をもって前面に出てくる内容が、そう思わせたのでしょう。
有名な『エンジェル・アイズ』も良い出来でしたが、他の曲は地味な曲ばかり。クリスのハスキーで迫力ある声が、地味な曲を輝く存在に変えております。