2005年6月5日掲載
The Anniversary Quartet      You'll See
Cellar Live原盤                       2004年9月録音

 Cellar というレストランではライブを行っており、そのライブのCDを発売していることは、Bruno Hubertの作品を取り上げた際に書きました。ジャズ・ファンとしては、このお店のオーナーが羨ましい限りです。今日取り上げる作品も、そこでのライブ作品です。グループ名は、記念クァルテットになっております。恐らくは何周年記念ということなのでしょうが、このライブ・シリーズの発売を始めてからは3周年になります。

 さてメンバーは、ここ数年の僕のお気に入りのマイク・ルドンがオルガンを演奏し、2003年に吹き込んだ作品「Smokin' Out Loud」と同じ方々。エリック・アレキサンダー(ts),ピーター・バーンスタイン(g),そしてジョー・フランワース(d)というもの。当然僕の購入理由は、記念盤だからではなく、このメンバーによるものです。

 さて3周年記念盤ということなのですが、5年や10年なら分かるが、3周年というのは芸がないと感じます。これは想像ですが、メンバーの誰か一人をリーダーにした場合、何か契約関係で問題があったのでしょう。それで、このようなグループ名称にしたのでしょうね。

20050605

 アレキサンダーから始まる『after the love has gone』は、「Waltz For An Urbanite」でも取り上げていたミディアム・テンポの曲。ここでのユッタリ感が堪らない。決してノンビリではない。テナーに続くギターもオルガンも、同様である。ユッタリ感でありながら、熱気がある。

 続いての曲は、少しテンポを上げたレドン作の『11 years』だ。11年とタイトルしているところをみると、このお店の満10周年記念のライブなのであろうか。そんな疑問は別にして、レドンのオルガンの大爆発が楽しめる曲である。

 お次はJJジョンソンの名バラッド『lament』である。先発するピーター・バーンスタインのギターが堪らない悲しみを描き出している。しかし前曲のレドンからも、ここでのバーンスタインからも、血走った目で演奏している雰囲気は感じられない。自然な姿での熱演である。

 続く曲は、「Waltz For An Urbanite」にも入っている『you'll see』だ。圧巻の10分である。一途にがむしゃらに演奏しているのではなく、余裕でがむしゃらに演奏しているのだ。これは4人全員に言えることであり、バンドとしての成熟度が表れている熱演と言えよう。

 ここまでで大満足の作品であるが、さらにアレキサンダー大爆発の『delilah』、みんなで楽しく『cherikee』と、素敵な演奏が続いていく。

 アレキサンダーを中心に考えてみると、ワン・フォー・オールとは明らかに色合いが違う演奏である。ワン・フォー・オールは真剣にがむしゃらであるが、このバンドでは余裕でがむしゃらなのである。僕はこっちのアレキサンダーが気に入っている。何か一皮向けた印象だ。ここ何年、第一線で張ってきて、何かを掴んだのではないか。第一線で張ってきた者だけが到達できる、本当の一流の域に達してきたのではばいだろうか。これは他のメンバーにも言えることである。

 レドンのオルガンを考えた場合、サラッとしてコクがあるオルガンなのである。僕が聴いてきたオルガン演奏は、1960年代初めまでのものである。ブルー・ートで言えば、4000番台の前半までである。黒人のブルージーさに、聴き惚れたものだった。レドンのオルガンは、このブルージーさとは、異なるものだ。例えて言えば、ローリング・ストーンズのブルースと言えよう。キースとミックのアイドルであったブルース・マンのコピーから始まったストーンズであるが、そこで演奏されているブルースは大先輩のものとは質を異にするサラッとしたものだった。ストーンズなりに大先輩を消化して、自分のオリジナルを出していった結論なのであろう。レドンのオルガンにも、大先輩を必死にコピーしながら自身のオリジナリティを得た姿が伺える。

 さて長々と書いてしまったが、数十年後においも胸を張って推薦出来る盤であると言い切れる作品である。