去年の9月頃に、寺島靖国コレクションと題して、東芝EMIからトロンボーンの珍しい作品が10枚発売されました。僕には知らないトロンボーン奏者が多い中で、今日取上げるスライド・ハンプトンは僕の中では有名な存在でありました。渋谷ジャロの店主に聞くと、このシリーズで注文が入っているのはこのハンプトン作品が中心とのこと。紙ジャケ限定ですので無くなってはいけないと、すぐさま注文した次第です。
さて、ここでスライド・ハンプトンの経歴を簡単に紹介します。1932年に音楽一家に生まれた彼は、早くから活躍しておりました。1955年から1956年にかけてバディ・ジョンソン、1956年から1957年までライオネル・ハンプトン、1957年から1959年までをメイナード・ファーガソンといった具合です。さらに1959年からは自己のオクテットを結成しておりました。1968年にはウッディ・ハーマン楽団に参加し、欧州へ楽旅。そしてそのまま欧州に住み着いたのでした。
今日取上げる盤は、欧州時代初期のパリでの録音。ヨアヒム・キューン(p),ニールス・ペデルセン(b)という欧州ミュージュシャン、そしてハンプトンと同様に当時パリで活動していたフィリー・ジョー・ジョーンズ(d)が参加していワン・ホーン作品です。
飛ばす飛ばす。1曲目の『in case of emergency』はかっ飛びの連続。出だしから最後まで10分間の高速走行である。迫りまくるトロンボーンに、変化球を立て続けに投げるキューン、そして極め付けが叩きっぱなしのジョーンズだ。
いったいこの録音時点で何歳なのだろうと調べてみたら、ハンプトン36歳にキューンが24歳。まだ全速で充分飛ばせる年齢だ。しかし、ジョーンズは45歳。飛ばすハンプトンとキューンを、さらに煽るドラム。あと数年で45歳になる者としては、今までと同様に遊べるのだと、安心した次第だ。仕事のことは考えないでおこう。
さてクァルテットなので、もう一人いる。ベースのペデルセンだが、彼はこの時点で22歳。最年少なのに、最も落ち着いた演奏なのだ。ペデルセンの骨太のベース音には驚いた。今まで何枚ものペデルセンの演奏に接してきたが、世間で言われる骨太感を感じたことは一度も無い。何か、軽く弦を引っ掻いている印象だった。まぁ音色は置いといて、22歳のペデルセンは、この録音では他メンバーに圧倒されでの落ち着きさなのかな。
さて『in case of emergency』を含めてハンプトン作の曲が4曲収録されている。どれもが飛ばしているのだ。そしてそれは軽快な飛ばしではない。スポーツ・カーでアウトバーンではなく、アメ車で市街地を走っている感覚だ。
流石にこんな演奏4曲では、身が持たなかったのであろうか。残りの1曲は、同じトロンボーン奏者のJJ作の名曲『lament』を持ってきた。スピードを落としての演奏だ。恐らく、急遽用意したのではないかな。
なかなか面白い作品でした。