エリントンと言えばビッグ・バンドですが、ピアニストとしてはコルトレーンの「バラッズ」の印象しか僕にはありません。調べてみたらエリントンのピアノ・トリオ作は生前に3枚、死後に1枚、世に出ております。今日取上げるのは生前に発表された作品であり、「バラッズ」の2ヶ月前に吹き込まれたものです。共演は、ミンガスにローチ。「バラッズ」で聴けるような綺麗なピアノのエリントンに、どのようなベースとドラムで絡んでいっているかが、非常に楽しみです。ミンガス参加のピアノ・トリオということで聴きたかった盤ですが、昨年暮れに渋谷ジャロ中古コーナーで見かけるまで、買い逃していた作品です。
メロディを奏でる楽器という機能を、ここでのエリントンはピアノに求めていない。打楽器本来としての機能を、エリントンはピアノに求めている。実に激しい演奏だ。これが本当に『caravan』なのか。そして本当に『solitude』なのか。打ち続けられるピアノと、太っいのに柔軟なベースと、雨後の滝のように繰り出されるドラム。
しかし、見事にジャズになっている。瞬間瞬間はリズムだけが印象に残るが、後味でメロディが頭に焼き付いてくる。この作品は、ピアノ・トリオの傑作盤と言えるものだ。こんな姿のエリントンは知らなかったという思いは間違いで、エリントン自体を僕は知らなかったということだ。何故ならば、世間ではこの盤は名盤としてしっかり認知されているからだ。
新譜買いも楽しいが、今でも世に出てくる数多くの旧譜の中にこの作品のような未知盤が多数あるであろう。何といっても、1曲目に収録されているタイトル曲を聴き終えた瞬間の衝撃は、忘れられないものだ。それは良い演奏を聴いたという衝撃でもあり、自分が如何にジャズを知らなかったかという衝撃でもある。「ジャズの世界は奥深いものではなく、奥が無いものだ」との名言がある。
だから、20数年間も、そしてこれからもジャズを楽しめるのだ。