2005年1月22日掲載
Mike Taylor        Trio
Columbia原盤     1966年録音

 香港で今住んでいるアパートでは、日本の衛星放送が受信出来ます。しかし、アンテナが小さいのか何だかの影響で、画面が乱れっぱなしの場合が多いのが、非常に残念な点です。昨年のオリンピックでは、夜中の生中継時間帯は全滅で、本当に悔しい思いをしていたのです。

 NHKの他に、BS-iも見ることが出来ます。今年の正月に何気なくBS-iを見たところ、ジョン・メイルオールのコンサートを放映していました。「ジョン・メイルオール・ブルース・バンド」と言えば、エリック・クラプトンが、ヤードバーズ脱退後とクリーム参加の間に参加していたバンドであることは有名ですね。

 この元旦に放送されたライブは最近のものであり、普通なら僕の心をそんなに揺すらないもの。しかし、クラプトンがゲスト参加していたのです。外出しようと思っていたのを止まり、TVを見続けておりました。さて何時まで放送するのかとネットで調べたら、後1時間30分も続くことを発見。キリのいいところで外出かなと思っていたら、後半に我がストーンズに在籍していたミック・テイラーもゲスト参加することが分かったのです。ここで初めて腰を落ち着けて、最後まで見ることを決心したのです。

 ライブの途中で、主役のメイルオールが、クリス・バーバーというジャズのトロンボーン奏者を紹介しました。その際のコメントが、興味深いものでした。「1950年代半ばに行われたある催しで、クリス・バーバーがアメリカから一人のブルース歌手を連れてきた。このことによって、イギリスにブルースが広まったのだ。そのブルース歌手とは、マディ・ウォーターズである」というものでした。イギリスにおいて、ジャズを仲介としてブルースが広がったとは、驚きでしたね。

 クラプトンもストーンズも、1960年代を輝かしく飾ったロック・スターは、ほぼ例外なくブルースの影響を強く受けています。もしバーバーがマディ・ウォーターズを連れてこなかったら、この1960年代のロック・シーンが、変わっていたのでしょうかね。

 いきなり今日取上げる盤の話題から外れておりましたが、今日の主役はピアニストのマイク・テイラーであります。1938年にロンドンに生まれたマイクは、子供の頃からピアノを演奏しておりました。兵役後、自分のグループを率いて活動しておりました。そのグループには、ジャック・ブルース(b)やジンジャー・ベイカー(d)といった、ロック畑で有名になった人も含まれておりました。このコーナーで何度か触れてきましたが、イギリスにおけるジャズ,ブルース,そしてロックの緊密な結びつきを感じさせることであります。

 マイク・テイラーの活動の絶頂期に吹き込まれたのが、今日取上げる作品です。ベースにはジャック・ブルースが参加しております。

20050122

 『all the things you are』という曲は、1939年にジェローム・カーンが書いた曲であり、ビ・バップ以前も以降数多くのミュージュシャンに取上げられてきた曲です。その流れはハード・バップ以降も続き、我がマレイも『children』というアルバムでこの曲を取り上げております。

 そして、このマイク・テイラーも、この曲を1曲目で取り上げております。独特のリズム感で演奏する姿はスリリングです。また溜めの空間を上手く作り、テーマ・メロディの登場を、焦らしながら絶妙に演出しております。ここでのテイラーの演奏はジャズの醍醐味を味わえる内容です。それに加えて言える事は、前者の特徴はブルース・ロックに、後者の特徴はプログレ・ロックに繋がるように思えます。2曲以降はテイラーのオリジナルが中心になるのですが、この『all the things you are』の雰囲気が継続されたものです。

 イギリスのジャズを語る上で、欠かすことの出来ないピアノ・トリオ作品と言えるでしょう。