この作品が発売された1989年は、既にCDが新譜の主流になっており、LPも一緒に発売される作品も少ないながらもあった時代です。旧譜の発売に関しては、CDは有名作品を次々に復刻していました。一方LPにおいては、「最後の復刻」という宣伝文句で旧譜の発売を何度も繰り返していたのです。
渋谷ジャロでも、それらの「最後の復刻」LPは売れていましたが、知った作品ばかりでワクワクするような作品が発売されず、常連達はいささか退屈気味の状態でした。盛況だったのはオリジナル盤だけでしたね。
そんな時代に登場したのが、パウエルの未発表作品の発売告知でした。久々のビッグ・ニュースでしたね。フランシス・パウドラス所蔵のテープが世に出た訳ですが、パウエルとフランシスの関係は有名なことであり、映画「ラウンド・ミッドナイト」に詳しいので、ここでは敢えて書きません。
第1集である本作品は、1944年と1948年に吹き込まれたものであり、何故フランシスの手元にあったのかは分かりません。1944年録音の方にはモダン期でも名前が知られていた方はパウエル以外には少なく、有名所では歌手のエラだけですね。1940年までエリントン楽団の花形トランペッターとして活躍したCootie Williams という方がフューチャーされております。一方の1948年のセッションには、JJジョンソンやコニッツからマックス・ローチまでモダン期の有名所が何人も参加しております。
1943年からパウエルはウィリアムスのバンドに加わったとか。1944年は20歳のパウエル、ウィリアムスのところでレコーディングも行ったとか。
さて1944年の演奏。考えてみたら、この時は第二次世界大戦だったのですよね。この録音はラジオ放送なのですが、戦地にいる兵隊産向けにレコーディングも活発に行われており、ジャズ・ミュージュシャンにはお仕事が結構あった時期です。このラジオ放送の音の悪さは時代として諦めなければいけないのですが、パウエルの速弾きは、数少ない見せ場場面では光っております。それと28歳のエラの若い歌声もなかなかですね。
その後のパウエル、1947年にはルーストにピアノ・トリオで名盤を吹き込むのですが、これはピアノ・ベース・ドラムという現在まで愛されつづけているスタイルを作りあげた作品なのです。
しかしルースト盤録音後に、精神病でパウエルは10ヶ月の入院生活を余儀なくされたのです。その入院生活から復帰した直後の演奏が、この盤に収録されているラジオ放送です。
ビ・バップの風を肌で感じられる熱気がここにはあります。またパウエルの演奏も、1年近くのブランクなど全く感じさせないものです。13分近い「ornithology」は、かなりの聴き応えですよ。
それにしてもジャケットに移っているパウエルは、若いし痩せているし、後年の姿と重ねれば面白いものですね。