この“今日の1枚”コーナーは、気の向くままに選んだ盤を、その時に感じたことをダラダラ書いております。だからこそ、2年以上も続けられているのですがね。その中で、ジャケをスキャンし紹介文も書き聴いた上で、感想を書けずにホッタカラしてある盤があります。それがこのスティーブ・キューンさんの、数年前にヴィーナスから出た作品なのです。何か、掴み所がなくて、ほったらかしてもう1年になりますね。渋谷ジャロの壁にこの作品が紙ジャケでの再発盤で壁に飾ってあり、今書いてあるようなことを店主に言ったら、「お前には分からないだろうな」との一言。単純な僕は、煽られると乗ってしまい、ここで取り上げる次第です。
活躍の場所を欧州に移したキューンが、30歳の時に吹き込んだピアノ・トリオ作品です。
1960年4月上旬にマイルス・バンドを辞したコルトレーンは、直ぐ自身のクァルテットを結成し、そのピアニストに迎えたのが、このキューンです。1年近く、マイルス・バンドや自身のリーダー作で付き合っていたピアニストがウィントン・ケリーでしたので、恐らくケリーとは違う味ということで、1年前のカインド・オブ・ブルーで共にしたエヴァンスの耽美さをキューンに求めたのではないのでしょうか。
しかしキューンとは6週間共にしただけで、記録に残っている限りでは、ジャズ・ギャラリーに4月末から5月15日まで出演したのが唯一の活動です。コルトレーンが最初に惹かれた耽美さはこの「Watch What Happens!」で十分感じ取ることが出来ますが、コルトレーンはそれよりも神秘さを選んだようでして、キューンの後に向かえたピアニストが黄金クァルテットを築くことになるマッコイでした。コルトレーンとの一件から8年後にこの作品が吹き込まれたのですが、最後に収録されているカーラ・ブレイ作の「ad infinitum」で聴ける奇妙なタッチが1960年に出ていれば、コルトレーンの気持が変ったかも。残念ながら1960年のコルトレーンとのセッションの録音は世に出ていませんがね。