カーメン・マクレーをして「彼女こそ本当のジャズ歌手だ」と言わしめたベティ・カーターの初リーダー作品です。しかし純粋にそうも言いきれなくて、12曲中6曲だけ彼女 は歌っており、残りは伴奏のレイ・ブライアント(p)のトリオ演奏になっています。彼女は この時期はハンプトン楽団を辞した後で、主にナイトクラブで歌っていました。その実力の 割には評価は低く、レコーディングの機会にも恵まれていなかったため、こんな形での吹込み になったのでしょうか。またブライアントにとっても、まだ初リーダー作を吹込む前であり、見方を変えればブライアントにとっての初リーダー作とも言えますね。カーターが歌っている3曲に、ジェローム・リチャードソン(fl)が参加しています。
いつも書いていて自分の 語彙不足を痛感していますが、ベティ・カーターの魅力はキュートな声と抜群のテクニックで しょう。器楽的な歌い方との形容が彼女にありますが、表現のための彼女にとっての大きな武 器になっています。迫力のある歌唱の“the way you look tonight”や、スキャットを効果的 に使った“thou swell”が圧巻です。また「ベティのバラッドものはあまり良くない」との定 説があると解説で書かれてますが、“I could write a book”での優しさは定説を覆すものです。 またもう一人の主役であるブライアントですが、2年後にプレスティッジに吹込む名盤での軽快に ドライブする彼のスタイルが、すでにここでハッキリと確認出来ます。ジャズ・クラブでは、 最初にピアノ・トリオで数曲演奏した後歌手が登場し、また途中にもトリオでの演奏を挟む スタイルが多いですよね。この盤では、その後大物になる二人の25歳という若き日に、そんなジャズ・クラブの感じを出しています。