この年8枚目で最後のリーダー作品で、トリオ編成になっています。スイスのウィリソーで行なわれたジャズ・フェスティバルでのライブ録音でして、ベースにはこの年の1月のフランスでのライブ録音で競演以来息がピッタリと合っているジョニー・ダイアニ、ドラムには初競演になる大物アンドリュー・シリルが参加しています。この年はピアノレス・クァルテットやソロ演奏、クィンテットという編成での作品を残してきましたが、最後のリーダー作は2年前のリーダー・レコーディング・レビュー以来のトリオ編成で締めています。これはこのジャズ・フェス主催者の要求だったのかマレイの意思か分かりませんが、その内容には誰でも興味津々でしょう。僕は残念なからオリジナルのダンボールのジャケットの2枚組レコードは持っていなく、1枚物のCDを聴くことになります。悲しいかな17分の演奏の“P.O.In Cario”がそのCDに収録されてなく、ここではその曲を除いた4曲だけでのレビューになることをご了承願います。
ジョニー・ダイアニのベースは力強くて、アコースティッ ク・ベースの持つ音色を余すところなく出しています。もーこれだけに集中して聴いていても70分という時間が、あっという間に過ぎるでしょうね。しかしマレイの熱情テナーが、それを許しませんよ。この年2度目の演奏になる“Patricia”や、ジェームス・ニュートンとのデュオ作の中でサックス・ソロで初披露したタイトル曲での、恐らくはこのジャズ・フェスに来ていた人達を興奮の坩堝に引きずり込んだであろうサックスが、充実しきってます。この2曲の前に収録されている最初の曲“in memory of jomo krnyatta”は10分近い演奏全てがフリーキーなもので心配したのですが、タイガー・ジェット・シンが入場行進でサーベルを咥えながら場内を駆けずり回ったのと同じで、フリー大好きが観客に多いだろうと判断してのファン・サービスなのでしょう。“shout song”はリーダー作レビューの年にロフトのミュー ジュシャンを一同に集めて、ダグラス・レーベルが行なったセッションで披露された曲なのですが、ここでは24分という演奏時間のため少しダラダラ感が出てしまってるのが残念です。しかしながら様々な演奏を行なってきたマレイが、デビュー当時のトリオ編成で吹き込んだこの作品は、以前のマレイのトリオ 作品の色とは明かに違ってきており、懐の深さを感じさせてくれるものになっています。