1999年6月14日掲載
Thelma Gracen       night and day
Emarcy原盤       1955年録音

 ジャケットを見ると、このセルマ・グレーセンという歌手はなかなかの美人ですね。かつてはこのアルバム、幻の名盤だったとか。12年前に国内でCD発売されるまでは、本国アメリカはもとより世界どの国でも再発されたことが無かったそうです。

 彼女の経歴も、全く知られていません。かろうじて分かる事は、12歳からジャズ色の濃くない幾つかのダンス・バンドで歌ってきて、エマーシーにこのアルバムを吹き込んだことだけです。これだけから想像するとポップス系の歌い方を想像されるかも知れませんが、しっかりとしたジャズだったと記憶してます。バックはピアノのルー・レヴィ、ギターのバーニー・ケッセルを含む6人です。久しぶりですよ、これを聞くのは。

19990614

 “I couldn't tell you though I try. Just why I'm yours”(どーしても言えないの。あなたのものだから)って、言われてごらんなさい。しかもその声は、クリス・コナーのようにハスキーで、ジューン・クリスティのように可愛らしいのですよ。しかも美人ときたもんだ。僕はイチコロだろうな。このアルバムは、この“アイム・ユアーズ”を含めスタンダード を12曲収録していますが、どれも素敵ですよ。声に表情がありますし、抜群なスィング感とのびのびした歌い方が魅力ですね。バックも歌伴には定評があるルー・レヴィのピアノは当然として、ケッセルのギターも彼女をしっかりとサポートしています。

 この録音の後の彼女の消息は、全く知られておりません。地方のクラブで歌っていたのか、結婚して引退したのか、女優に転進したのか、一切不明です。彼女に前述の言葉を囁かれた男性は、幸せ者ですね。でもこうやって彼女のアルバムを聞ける僕も幸せですよ。