1999年5月30日掲載
Benny Bailey       soul eyes
MPS原盤        1968年1月録音

 アメリカのジャズマンで、ヨーロッパにその活動の拠点を置いている人達は、数多くいます。このアルバムはそんなミュージュシャン達が、ドイツのジャズクラブ“ドミシル”で行なったライブを収録したものです。リーダーはトランペットのベニー・ベイリーです。彼は1953年からヨーロッパに移りましたが、オーケストラでの活動が多いせいか、キャンディドのアルバムとこれ以外は、僕はあまり知りません。ピアノのマル・ウォルドンは1960年代に入ってから、たびたび帰米していますが、この録音当時はこの録音場所の“ドミシル”のハウス・ピアニス トのようなものでした。もう一人、テナーのネイザン・デイヴィスは軍隊のバンドの一員として訪欧し、1969年までパリを中心に活動していました。ジャケットを見ると、このクラブにエラ・ フィッチェジラルドも出演していたみたいですね。観客もみんな真剣な顔つきです。僕も真剣に、何故ヨーロッパを演奏活動の拠点にしているのかを少し考えながら、聞いてみます。

19990530

 ドルフィーとリトルのファイブ・スポットのセッションが大好きなのですが、このアルバムの“プロンプト”を聞いて、この二つに同じ漂いを感じました。二つのセッションに共通しているのは、ピアノのマル・ウォルドロン。ファイブ・ スポットでの彼の役割の大きさを、このアルバムを聞いて痛感しました。ここではマルのシングルトーンを多用した演奏が、ソロは元よりバッキングでも全体を支配しています。バッキングで自己主張出来、全体を壊すどころか、しっかりとまとまったものするマルは、やはり素晴らしいピアノ弾きですね。曲ではタイトル曲が光っています。マルのオリジナルである“ソウル・アイ ズ”は数々のミュージュシャンに演奏されてきたスロー・バラッドですが、ここではボサノバ風に演奏されています。ベイリーのペットは他の曲とは違って少しこもった感じの音なのですが、ボサノバ調でありながら、曲が本来持っている悲しさを見事に表現しています。他の2曲は10 分を越す演奏時間で、全体的にそれぞれの奏者の個性を充分楽しませる内容です。ベースのジミー・ウーディもヨーロッパに住みついたアメリカの方なのですが、彼の力強い演奏が充実しています。またデイヴィスのテナーもブロウしていて楽しめます。重要なのは各自バラバラに演奏しているようで、しっかりまとまっていることですね。やりたいことがやれるから、これが彼らがヨーロッパを拠点にした理由ですかね。その意味ではアメリカでフュージョンの嵐が巻き起こった1970年代も、彼らにとってはヨーロッパの方が良かったのでしょうね。