ケントン楽団で1年過ごした歌手クリス・コナーは、独立後にベツレヘムに1953年から1955年にかけて35曲を録音しました。それらはLPの時代に入り3枚のアルバムに分けて、発売されました。“バードランドの子守唄”と“ジス・イズ・クリス”は人気盤になったのですが、この“クリス”はやや選曲が地味なため他の2枚に比べて地味な存在になっています。バックはオーケストラやピアノトリオやスモールコンボなど多彩で すが、若き彼女のハスキーボイスはどのように聞こえるでしょうか。
3年間での4回の録音を順を追って聞いていくと、このアルバムの性質が見えますよ。最初は1953年のオーケストラをバックにしての録音ですが、ケントン楽団での延長線上にあるだけです。しかし1954年の2回目の録音では、“オール・アバウト・ロニー”でのように艶が増した歌声になって、ドラムをギ ターに置き換えたピアノトリオでの演奏と共に良い味を出してます。同じ年の変則クィンテットでの録音では、表現力が増してきています。“ラッシュ・ライフ”での解釈の仕方は聴き物ですよ。そして1955年の録音ではホーンを3本入れてますが、ここでは歌い方に暖かみが出てきていますよ。“イン・アザー・ワーズ”では包み込まれるような感じです。ちなみにこの曲、後に“フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン”というタイトルになりました。クリス・コナーはこの後アトランティックに移籍し円熟味のあるアルバ ムを次々に吹き込みますが、このアルバムでは若き日の彼女の成長していく過程が、素晴らしい内容と共に味わえます。