1999年12月21日掲載
David Murray      Picasso
DIW原盤             1992年9月録音

 この作品の背景については、CDに封入されている解説(悠雅彦氏)を引用します。ジャズとスペイン 生まれの偉大な画家パブロ・ピカソとの関わりは、1948年にまで遡ります。ジャズ界の偉大なテナー奏者であるコールマン・ホーキンスは、1934年にヨーロッパに渡り、約5年間滞在していました。そこでピカソの芸術に心打たれた彼は、1948年に“ピカソ”と名付けた曲を、無伴奏テナー・ソロで吹き込んだのです。それから半世紀近く後の1992年に、 クリーブランド美術館でピカソ大回顧展「ピカソとその画業」が2ヶ月間行なわれること になりました。その記念イヴェントとして、ピカソをテーマとしたジャズの特別コンサー トが企画されました。そこで、白羽の矢が突き刺さったのがマレイだったのです。マレイはオクテットを編成し、組曲を作り、リハーサルを兼ねたツァーを行ない、3月11日の コンサートでは美術館に設けられた700人が集まった会場を、熱狂の渦に巻き込んだそ うです。この作品はその半年後に録音されたもので、メンバーはバレル(p)をはじめとして、 マレイにとってはお馴染みにメンバーであり、コンサートのメンバーとほぼ同様です。マ レイにとって6作目のオクテット作品であり、作品への準備期間という意味では、今までの中で最も充実したものですね。なおジャケットは、ピカソの Still Life with Soanish という作品が、当然ながら正規の許可を得て使用されています。

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 混沌、それからの解放。哲学系ジャズ評論家風の書き方をすると、こうなるのかな。この作品のメインは当然のこと、40分弱の演奏時間で7部構成のタイトル曲ですね。この中で、“catalonian vonz”と“when hawk meets pablo” の曇天がから日が差し始め、潜んでいたアイディアが爆発していく情景を描いているメロディ です。これを引き締める効果を発揮しているのが、フリーな会話や戯れを表現しているパーツですね。ここでの演奏は、もちろんアンサンブルを効果的に用いてますが、それを前面に出すのではなく土台にしており、各自のソロの華麗で爆発的なソロを引き立てています。前作のビッグバンドで爽快に抽出されたこの部分が、ここでも一層パワーアップしています。1980年 から始まった大編成でのマレイが、この1992年に一気に開花したようですね。さてこの組曲以 外に3曲収められていますが、こちらも良いですよ。“chazz”“shakill's warrior”という お馴染みの曲も、このオクテットで今までにないこの曲の魅力を感じさせています。バレル作 の“menehune messages”は、ちょっとラテンの香がするし、ディキシーの風味がある曲で、 バレルの曲作りの奥深さが再発見出来ます。バレルの演奏場面の少なさというような不満点もありますが、これは贅沢な望みなのでしょう。上述のように8人での演奏が繰り広げる圧倒的な質感から、この作品はマレイの大編成での代表作になっています。