この年の1月に行なわれたマラソン・セッションでマレイにとって貴重なパートナーとなったデイヴ・バレル(p)と、再び組んだ作品です。ベースにはもう6回目のレコーディングになるウィルバー・モリス、ドラムには初共演のヴィクター・ ルイスが参加しています。前作がメジャーでの吹込みになり、そこで恐らくポートレ イトと専属契約を結んだのでしょう。ここではメンバー4人がクレジットされているのはそのためであり、マレイのリーダー・セッションしてこの作品は扱うべきものでしょうね。またマレイ自作の曲が1曲もないのもそのためかも。1月のセッションで披露された、ハバネラ調のリズムにのった素晴らしいバレル作の“valley talk”が ここでも取り上げられてます。もう1曲バレル作の“abel's blissed out blues”と合わせて、この作品での焦点でしょうね。
期待していた“valley talk”の出来はですね、決して悪くはありませんよ。この作品が初出ならこれで十分の出来なのですが、この年の1月の吹き込みと比較すると、深さという点で少し劣りますね。少しスローにしたのが影響しているのかな。注目すべき演奏はウィルバー・ モリス作の“chazz”です。チャズというのはミンガスの愛称らしいですよ。ここでは ミンガスの作品を思わせる淋しげなマイナーなブルースのテーマをバレルのピアノが提示したあと、マレイのバス・クラが追う展開で進んでいます。全員の息があったこの曲、またこの作品の他の演奏を聴きながらこの年のマレイの6枚に収録された演奏 全体を思い浮かべると、マレイにとっていかに充実していた年かが分かります。