マラソン・セッションから3枚目の作品です。発売当時はジャーナルの記事も、DIWの広告もこのセッションからの作品だとは触れてなく、好評だった“ラバーズ”のセッションの作品だとは気づきませんでした。ここに収録されている曲にはスタン ダードはなく、マレイのオリジナル2曲、バレルのが3曲、ピーターソンのが1曲収められていて、全てが初めて披露されるものです。後拾遺集のように感じられるかもしれませんが、充実していたこのセッションからの作品だけに、悪いわけはありませんよ。
6曲どれも素晴らしい出来なのですが、とにかくバレル作の“valley talk”が白眉ですよ。悲しみと優しさが感じられるメロディと、独特なリズムが印象的です。解説にはハバネラ調のリズムと一言書かれており、その意味を調べたところ、キューバの舞曲の意味で一般には4分の2拍子のリズムだそうです。一九世紀後半のヨーロッパで流行し、ビゼーの「カルメン」第 一幕にとりいれられて有名になったものらしいですね。オペラを手がけているバレルとこの独特のリズムの結びつきは、この辺りなのでしょう。このメロディとリズム上での演奏は、マレイがメロディの哀調感を充分に自分のものにした上で切実と歌い上 げ、テーマのあとは独特のリズムに乗って暖かみのある演奏を繰り広げていますね。マレイのオリジナルの2曲も、何かバレルの影響を受けているようですね。確実にマレイの演奏スタイルに、新たな一面が、それも素晴らしい一面がはっきり分かる、バラッド集に出来上げっています。