世界的な指揮者のバーンスタイン、ニューヨーク・フィルハーモニックを率いて1970年代のマーラー・ブームの中心にいたバーンスタインは、クラシック音楽以外の音楽にも造詣の深い方です。その彼が1956年のコロンビアで、「What Is Jazz」というアルバムを制作しました。バーンスタインは解説(喋り)がメインであり、有名ジャズマンの演奏について触れています。二部構成であり前半は「Types of Jazz - Jazz Elements」との題で、エリントン楽団やレッド・ベリー、ベッシー・スミスやサッチモなどの演奏が紹介されています。後半は「Popular Song - Improvisations」との題で、「Sweet Sue, Just You」というヒット曲を、ジャズマン達がどのように扱っているかを説明しているものです。バック・クレイトンやドン・バターフィールドなどの演奏と共に、マイルス・クインテットの演奏も収録されています。このアルバム「What Is Jazz」は、1956年10月15日に発売されました。
マイルスは新たに契約したコロンビアで、最初のアルバム「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」を制作するため、1955年10月26日、1956年6月5日、そして1956年9月10日の3回のレコーディングを行いました。その3回目の1956年9月10日に、バーンスタインのアルバム「What Is Jazz」向けにマイルスは、「Sweet Sue, Just You」を収録しました。
アルバム「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」は、マイルスとプレスティッジとの契約終了を待って、1957年3月4日に発売されました。
マイルスの演奏がコロンビアから初めて発売されたのは、今日取り上げるバーンスタインのアルバム「What Is Jazz」でした。もちろん、マイルス・クインテットにはコルトレーンが参加しています。
マイルス・クインテットの演奏については、「今日のコルトレーン」をお読みください。
このバーンスタインが監修し解説を行ったアルバム「What Is Jazz」の存在を私が知ったのは、2019年から maharl.com で始めたコルトレーン特集の中でのことでした。そしてこのアルバム自体を聴くことは難しいだろうと考えていましたが、1998年にCDで国内発売されていました。そして新品が簡単にAmazonで購入できました。そのCDは「黄金時代のバーンスタイン」との宣伝文句もあり、バーンスタイン愛好家、クラシック好きの方を主な購買層にしての発売のようです。
国内発売ということで有難いのは、バーンスタインの解説のお喋りが、和訳されていることです。
マイルスの演奏が収録されている第二部の10分間について、バーンスタインの解説内容を簡単にまとめると、次の通りです。
「Sweet Sue, Just You」はポピュラー・ソングであり、ジャズではない。そこに演奏者のインプロヴィゼーションが加わって、ジャズになっていく。(中間を大きく省略)ジャズにはダンスが伴うものであったが、音楽がダンスから切り離され、新しい形となっていった」
ここまでの間にかつて録音された音源がいくつか紹介されています。1950年代前半までのジャズをバーンスタインは解説したのでしょう。そして新しいジャズの道を、マイルスの演奏を使って説明しているのです。
私の想像ですが、1956年9月10日のコロンビアのスタジオでマイルス・インテットはこの「Sweet Sue, Just You」を、コロンビアからの強い要望で録音したのでしょう。もちろん、バーンスタイン監修のアルバム「What Is Jazz」に収録するためです。そしてスタジオにはバーンスタインもいたことでしょう。マイルス・クインテットはこの曲を、11回も演奏いたのです。マイルスにとっては、いつもと勝手が違うことに戸惑っていたとでしょう。
さて私が持っている1998年国内発売のCDには、このアルバム「What Is Jazz」以外にも、オーケストラとサッチモなどが演奏している「セントルイス・ブルース」などが収録されています。ジャズ・ファンにお勧めというものではありませんが、買っても損はしないと思います。