規格番号AS-42として1963年7月にこのアルバムは、コルトレーンのインパルス!第七弾として発売されました。
また1961年11月のヴィレッジ・ヴァンガード熱演のアルバム化としては、第二作目となります。11月3日の4曲目に演奏された「India」をA面の最初に、11月3日の3曲目に演奏された「Impressions」をB面の最初に収録しています。「India」ではコルトレーンのソプラノとドルフィーのバスクラのぶつかり合いとなっており、一方の「India」ではドルフィーはアルトで加わっているものの、最後に一吹きするだけです。アルバム「Live at the Village Vanguard」と合わせて伝説のヴィレッジ・ヴァンガードでの9曲中5曲が、22テイク中5テイク、これで世に出たことになります。そしてこの熱演ヴィレッジ・ヴァンガードのアルバム化2作目まででは、まだドルフィーの活躍場面は多いとは言えません。
ジャズ・ファン、コルトレーン・ファンからこのアルバムに少し首を傾げるところがあり、それはヴィレッジ・ヴァンガード演奏以外に2曲が収録されていることです。
A面の「India」の後には「Up 'Gainst The Wall」が収録されています。これは1962年9月18日のアルバム「Ballads」向けの最初のセッションで収録されたもので、アルバム「Ballads」収録から漏れた、気軽なミディアム・テンポのブルースナンバーです。
B面の「Impressions」の後には「After The Rain」が収録されています。これは1963年4月29日のロイ・ヘインズがエルヴィンの代役を務めたスタジオ・セッションでの収録曲で、心の動きを捉えた静かだけど力強いブルースです。
純粋な白熱ヴィレッジ・ヴァンガードのライブ盤の第二弾とは言えない構成となっています。
なお各曲については「今日のコルトレーン」をお読みください。
コルトレーンのアルバムとして十分に満足して聴ける内容であり、スタジオ収録のものでは「After The Rain」を早い時期に聴けたことには価値があると思います。
そうは言ってもどうして白熱ヴィレッジ・ヴァンガードとスタジオ録音が混在しているのかについては、疑問もあることでしょう。
常識的に考えれば、30分弱のアルバムでは如何なものかとの考えからのものでしょう。アルバム「Live at the Village Vanguard」には3曲収録し、この第二弾アルバムでは白熱ヴィレッジ・ヴァンガードで何度も演奏した「India」と「Impressions」を収録しようとの考えは、当然のものでしょう。演奏時間は15分弱と14分なので、なんとか片面20分は確保したい。そうなると奇跡のヴィレッジ・ヴァンガードでの収録した他の曲は演奏時間から使えなくなり、そこから既にスタジオ録音したものを使おうとしたのでしょう。
私にはこの「常識的」考えだと思いながらも、別の思いがあります。それは、当初は全てスタジオ録音ものと考えていたはずだとのものです。まずは事実を記載しましょう。驚異のヴィレッジ・ヴァンガードの後からこの作品が発売された1963年7月までに、次のように「Impressions」がスタジオ収録されてきました。
1962年6月19日 録音2回(bdを含まれば7回、曲名はExcerpt)
1962年6月20日 録音2回
1963年3月6日 録音4回
そしてこれらの「Impressions」は当時は発売されず倉庫行きとなり、後年になって6月19日分以外が発売されました。
この事実から、私は次のように推測(妄想)します。
ヴィレッジ・ヴァンガードで抜群の手応えを得た「Impressions」を、是非とも黄金カルテットでスタジオ収録し、それを柱としたアルバムを作ろうと、コルトレーンとプロデューサーのボブ・シールは考えました。その構想でスタジオを録音を行いましたが、1962年と1963年の3回のスタジオ・セッションでは”これぞ”という演奏までには届きませんでした。コルトレーンは更にスタジオでの録音と思い、ボブ・シールもその思い自体には賛同しました。しかしながらスタジオ録音を行うにはお金がかかる、すでに三日も行っている、そしてアルバムを発売しないことには上層部から”ファイアー”されてしまう、こんなところでボブ・シールは悩んだことでしょう。シールはコルトレーンと膝を突き合わせて話し合い、では白熱ライブの「Impressions」を使いましょう、そうすると「India」も入れたいよね、アルバム片面としては尺が余るので、直近のスタジオ収録曲から適当なのを入れましょうとなったのです。
妄想話はここまでとして、とにかく伝説のヴィレッジ・ヴァンガードから「Impressions」と「India」がこの時期に発売されたのは、結果として良かったことでしょう。