2008年4月1日掲載
Hank Mobley          Dippin’
Blue Note原盤     1965年6月録音

 マイルスはいじめが好きらしかった。ジミー・コブやウィントン・ケリー、そして今日の主役モブレーも、マイルスからいじめられたとのこと。1961年に『いつか王子様』を吹き込むときには、レギュラー・テナーのモブレーがいるにも関わらず、アポロ劇場出演中のコルトレーンをスタジオに呼んだのである。そして、モブレー・コルトレーンのソロ順にし、モブレーに赤っ恥をかかせたのだ。そして2ヵ月後には、カーネギー・ホールでギル・エヴァンスのオーケストラと共演。そして再び『いつか王子様』を演奏したのだが、何とモブレー抜き。この直後にモブレーは、マイルスのもとを去ったのである。
 以上は油井先生の解説からの抜粋である。

 さて今日の作品は、このマイルスいじめ以降のモブレーの作品の中で、最も人気の高いもの。Lee Morgan(tp),Harold Mabern(p),Larry Ridley(b),Billy Higgins(d)との録音です。

20080401

 勿論この作品の目玉は、A面2曲目の『Recado Bossa Nova』でのメロディのやるせなさと、モブレーとモーガンの熱気あるフレーズの連発です。これは、1曲目のラテン・ブルースの『the dip』でも同様のこと。マイルス・グループでは味わえない、音の楽しさがここにあります。この時代を過ごした方がよく言われるように、顔をしかめながらマイルスとコルトレーンを聴き、リズムに乗りながらモブレーの演奏を楽しんだということだったのでしょう。『I see your face before me』などは、目玉曲が入っていない作品だと、語られることがない演奏なのですが、このような目玉曲が入っている作品では、ほっとして聴けるバラッドに聴こえます。