シビルさんの最近の作品を先日取り上げた際に、映画「タクシー・ドライバー」の話を少し書きました。内容については触れませんが、世界的に評判になった作品です。デ・ニーロは主演男優賞を総ナメにし、監督のスコセッシはカンヌ映画祭のパルム・ドールに輝き、ジュディ・フォスターは全米批評家協会の助演女優賞というような具合です。しかし主演女優のシビルさんは、賞には縁がなかったもよう。
そんな「タクシー・ドライバー」が封切された年に吹き込まれたのが、今日取上げる作品です。賞は取れなかったとはいえ、世界的ヒット映画の女優が、その有名度を利用して吹き込んだ余技と、歌手のシビルさんを見る向きがあるかもしれません。しかし彼女の芸能界スタートは、ジャズ歌手としてのものでした。歌手活動の傍らモデルとしても活躍していたのですが、1968年にファッション界の最高モデルに彼女は選ばれ、映画の世界に入っていったのです。
ジャケットは「タクシー・ドライバー」の雰囲気、バックにはスタン・ゲッツも参加。有名盤であります。
ジャケット通りの歌です。キャリア・ウーマンで強気な感じでいながら寂しげな目元。知性的な声で強くうたいながら、弱さと悲しみがある声です。女優の実績が無ければ世に出なかった盤であるのは事実ですが、スクリーンで知り得る彼女とダブらせながら聴くと、実に味わい深い1枚です。
また、ゲッツが全面的に大活躍。というよりは、ギャラ分はキチンと演奏しようとのプロ魂でしょう。リオン・ラッセルの『this masquerade』とタイトル曲と続く展開が良かった。バラッドをボサノバ色での演奏で、美しい声に僅かな艶が加わった歌声でした。