1989年に、フレッシュ・サウンドから復刻されたCDを買ったのですが、当時は全く無名の歌手かと思ってました。美人歌手が1枚吹き込んだだけで姿を消したという、数多くある流れを辿った歌手かと思ってました。そして、日本では20名ほどの好事家の間だけで語られていた人だったかと、勝手に考えたものでした。
今回ここで取り上げる際に調べてみたところ、有名な方だったのですね。「世界ジャズ人名辞典」に乗っている彼女の経歴を簡単に紹介します。1932年にシカゴに生まれた彼女は、ジャッキー&ロイのロイ・クラールの妹さんです。1948年にジェイ・バークハート楽団に入り、その後幾つかの楽団を経て、1955年に独立しソロ歌手として活動。その後も、メイナード・ファーガソン楽団,スタン・ケントン楽団,そして1962年にはシェリー・マンのコンボで歌っておりました。1964年からは引退同然の生活になったのですが、1974年にアラン・ブロードベントと組んで復活し、精力的に活動しておりました。しかし、1978年に46歳の若さで亡くなってしまったのです。
日本では、1974年の復活した以降に彼女が精力的に吹き込んだ盤によって、数多くのファンがいるそうです。
ということで1989年に今日取り上げる復刻盤を買った多くの方々にとっては、待ってましたの出来事であり、無名歌手の復刻だと思ったのは僕を含めて極少数だったのでしょうね。
ジュニア・マンス・トリオをバックにした録音です。
「the meaning of the blues」の冒頭は、お経を唱えるようなアイリーン・クラーク。可愛い尼さんを想像しました。アイリーンさんの歌声は、壊れそうで壊れない高音が魅力的。そして「rock me to sleep」で聴かせるような、姉御肌を気取りながらも弱気な面が顔を出す歌い方。この二つが、魅力的なアイリーンさんの歌の、重要ポイントですね。
アール・コールマンが熱唱を聴かせたバラッド「this is always」を、アイリーンさんは頑張って歌っております。この作品の弱点と言えば、頑張って歌っているアイリーンさんの姿が浮かんで、余裕さが欲しくなるところ。「guess I'll hang my tears out to dry」では、その必死さが良い意味で伝わってきて、大きく歌うべきこの曲を活かしております。この歌は、後年また彼女は取り上げたのですが、そこでは余裕も加わって更に良い出来なのでしょう。