ピアノ・トリオに強い関心がなかった1993年に、ピアノ・トリオの作品ばかり1600枚掲載した本が、ジャズ批評社から発売されました。渋谷のジャロさんにその本が置いてあったのですが、CD1枚買える値段のため購入する気が起きなかった僕に、店主が一言。「将来絶対に欲しくなる本だよ」。それから5年後に僕にとっての貴重な資料になり、店主の言葉に従って購入しておいて良かったと思うし、店主の見識の見事さを再認識しています。
で、その本に今日の主役アーノルド・クロスが1985年に、オランダのライムツリーに吹き込んだ作品が掲載されています。今日取り上げる本作品は、それから3年後に吹き込まれ、自主レーベルで数百枚だけ発売された作品だとか。澤野さんがクロスの新録音の交渉過程でこの作品の存在が明らかになり、ここで取り上げられるに至った次第です。「エヴァンス系のヴェテラン・ピアニスト」と、前述の本に書かれているクロスです。
上っ面を綺麗に行きつ戻りつしている演奏よりも、ストレートに言いきっている演奏のが方が気持良いね。「whisper not」や「confirmation」での正直さが気に入りました。しかしジャケでの浪漫さが演奏の全面を覆い尽くしており、聴く方としては退屈になる場面があるのは、否定できない作品です。