この吹込み前の数年間のマレイの活動を振り返ると、ファンクに迫ったり、グレイトフル・デッドの曲を取上げたり、アフリカン・リズムに接近したりと、新たな活動を模索し続けてました。また、マレイがレビュー以来、彼のリーダー作品で付き合ったピアニスト達を振り返ると、デイヴ・バレルやジョン・ヒックスという二人に代表されるように、作品の色具合で上手くピニストを使い分けてきましたね。さてこの作品のピアニストは、ローランド・ハナです。マレイの活動の流れから考えると、ベテランで落ち着いた趣のピアニストとの共演というのは、実に意外な組合せです。収録曲は四季に関するタイトルの曲を10曲集めており、マレイのオリジナルはありません。アメリカの聞いたことのないこのレーベルからの作品、マレイの新たな展開と言えるものなのでしょうかね。Richard Davis(b)、Victor Lewis(d)とのクァルテット編成での録音です。
プロデューサーのハービー・ミラー、この方がメン バーから選曲まで全て整えて、メンバー4人をスタジオに迎え、簡単なリハーサルの後に録音されたのでしょう。曲は全てメロディ豊かな落ち着いたものです。ちょうど10年前にDIW で杉山氏が用意したマラソン・セッションは、ある曲調に統一感を要求し、その中でマレイに自由に演奏させ素晴らしい成果をもたらしたプロデュースでした。しかし、ここでのミラーは 全ての面でお膳立てを整え、マレイご一行を出迎えたのでしょう。では、その雁字搦めの中で の演奏はどんなものか言えば、さすがはマレイという一言です。マレイの豊かな歌心が、隅々 まで響き渡っています。ハナのピアノですから、フリーキーな部分は似合わないと抑えるのは 当然なのでしょうが、微妙なさじ加減でそれを散りばめていますよ。マレイのテナーとバスク ラがハナのピアノにマッチしているのには、新鮮な驚きを感じました。2000年のマレイの展開は我々に姿を見せていませんが、基本的にはアフリカン・サウンド路線が暫く続くと思い ます。その合間に、このようなオーソドックスな形で歌心を聴かせてくれるのを、この作品を聴くと願いたくなりますね。SJのユニオンの広告に「これは大歓迎なマレイの変節」と書か れてましたが、それがこの歌心を指すのなら大きな間違い。彼は常に歌心を我々に提示してき たのであり、それがセッション毎に出し方が違っているだけなのです。ここでは、古典的な手法で、それが見事に引出されています。