1999年9月25日掲載
David Murray      The Hill
Black Saint原盤    1986年11月録音

 マレイにとってトリオ作品は3年ぶりの、そして6枚目になります。共演者は共に初めてになる方々です。ベースには、晩年期のドルフィーと共演し一躍有名になった、リチャード・デイヴィス。ドラムには、これまたドルフィーと共演したことがあるらしいジョー・ チャンバースで、ここではヴァイブも披露しています。トリオという形態は即興性がより試されるもので、他の編成以上にその部分に期待してしまいます。トリオでの前作の “wilber force”に対して、このような強い期待のあまり辛口の評価をしてしまいました。 すこし反省してますが、やはりこの作品にも強い期待を寄せてしまいますよね。5回目の録音になるタイトル曲は、トリオでは1979年の“sweet lovely”以来2度目になります。 また“santa barbara and crenshaw follies”は4度目の録音ですが、トリオでは初めてです。このマレイ作の2曲だけで想像すると初期のころの激しい演奏を想像してしまいま すが、エリントンやストレイホーンの曲も取り上げているので、その内容が楽しみになってしまいますね。

19990925

 “santa barbara and crenshaw follies”でのマレイのソロは圧巻の出来なのですが、その内容は攻撃性を弱め暖かみを増したものです。デイヴィスの柔軟なベース演奏がこれを支えているのですが、このベースが最も存在感を示しているのがタイトル曲である、“The Hill”です。9分間全てアルコ・ベースを披露しているのですが、マレイの作品でこれだけの長いアルコ・ソロが聴けるにはこれが初めてです。緩急つけて弾かれるアルコが、マレイのソロを鼓舞しています。7年前のトリオ演奏の際のフレッド・ホプキンスのベースによる演奏と比較してみると、どちらも熱演ながらそ の違いを発見できますよ。最後のストレイホーン作の“chelsea bridge”では、チャンバー スのバイブが美しい響きでマレイのテナーを包み、この作品を締めくくっています。